サッカーの話をしよう
No.777 世界を驚かせる? アメリカ代表
「みんなはブラジルだ、スペインだと言うけど、僕はアメリカに注目しているんだ」
そう話すのは、私の古い友人で、サッカーのデータ分析の専門家である庄司悟さんだ。
アメリカは昨年6月に南アフリカで行われたFIFAコンフェデレーションズカップで準優勝。準決勝でスペインを2-0で破り、決勝のブラジル戦では2点を先行した。
ワールドカップの北中米カリブ海地域予選を首位で突破し、現在FIFAランキング14位。ワールドカップではC組でイングランド、スロベニア、アルジェリアと対戦する。02年大会ではベスト8。狙いはベスト4だ。
コンフェデ杯のデータで庄司さんが何よりも注目したのは、アメリカ選手のスプリント(ダッシュ)の回数、とくにMF陣のスプリントの多さだった。従来の常識ではチームでスプリントが多いのはサイドバック。実際、コンフェデ杯の他チームのデータもその「常識」を裏付けている。
だがアメリカで最もスプリントが多いのは攻撃的MFのドノバンとデンプシーの2人だ。ボランチのクラークとブラッドリーもチームのなかで常に上位にはいっている。
アメリカのMF陣は攻撃面ではFWを追い越して前線に飛び出していくプレーを繰り返し、守備面ではボールをもつ相手を猛然と追い詰める。そしてこうしたプレーを90分間にわたってやり抜くことができる。
さらに庄司さんは、戦術面でもアメリカには他チームにない新しさがあると言う。ボールを奪ってからの攻撃への切り替えが非常に速い。特徴的なのははその攻撃の方向だ。相手ゴールにダイレクトに向かうのでもなく、逆サイドに展開するのでもない。その中間の角度に鋭く展開する。これによって、攻撃の二大要素である「広さ」と「深さ」を同時につくり出し、相手に安定した守備を組織しにくくさせるのだ。
アメリカの選手たちは、フィジカルの強さに加え、一人ひとりが果敢な決断力をもち、進んでリスクにチャレンジする。MFブラッドリーの父でもあるボブ・ブラッドリー監督は、選手たちの特徴を生かし切ったサッカーをつくり上げた。
ことし最初の合宿にはいった日本代表。岡田武史監督は「世界を驚かせ、ベスト4にはいる」と宣言しているが、アメリカもまったく同じ野心をもち、しかも実績と具体性を兼ね備えている。
ワールドカップ開幕まで、残り134日。
(2010年1月27日)
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