サッカーの話をしよう
No.780 チームスピリットは取り戻せるか
「岡田ジャパン」が危機的状況にある。
今夜豊田スタジアムで行われるバーレーン戦(アジアカップ予選最終戦)。ともに出場権を確保し、本来ならば「消化試合」だが、日本代表にとっては、ワールドカップへ向け、右に行くのかそれとも左か、重大な岐路になってしまった。
2月に行われた4試合で攻撃がうまくいかなかったことが理由ではない。東アジア選手権で3位に終わったことでもない。この4試合でチームに崩壊の予兆が見えたことこそ、大問題だった。
4年前の06年ワールドカップで、日本代表はファンに大きな失望を与えた。オーストラリアに逆転負けし、1分け2敗でグループリーグ敗退。だが失望の本当の原因は試合結果ではなかった。
02年から4年間指揮をとったジーコ監督のチームづくりは、選手間の相互理解を深めるとともに、どんな状況でもあきらめずに力を合わせて勝つことに集中するチームスピリットが柱だった。05年6月に予選を突破するまではそのスピリットが貫かれていた。チームは目標に向かってひとつになっていた。
しかしその後に崩壊がきた。ブラジルやドイツと引き分けたことで勘違いしたのか、選手たちは自分のことばかり考えるようになり、ワールドカップを迎えるころにはチームはばらばらになってしまったのだ。敗戦の背景に見えたチームスピリットの崩壊こそ、失望の最大の要因だった。
その過ちを繰り返してはならないと、岡田武史監督は「ベスト4宣言」を打ち出し、昨年後半、予選突破後のチームスピリットを鼓舞してきた。9月から11月にかけての7試合で示された選手たちのプレーぶりは、志の高さを感じさせた。
だが年を越したとたんに、そのスピリットに黄信号がともった。2月の東アジア選手権後にいっせいに「岡田解任論」が出たのは、ファンが崩壊の予兆を敏感に感じ取ったからにほかならない。難しい戦術論ではない。チームスピリットがあるかないかなど、誰の目にも明白だ。
その4試合を受けての今夜のバーレーン戦で問われるのは、何よりもチームスピリットに違いない。もし不幸にも再びそれが感じられない試合を見せるようなことになったら、日本サッカー協会は即座に監督交代の決断をする必要がある。
岡田監督の目指すサッカーの方向性は間違っていない。しかしチームをまとめきれないのであれば、他の道を選ぶしかない。
(2010年3月3日)
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