サッカーの話をしよう

No.781 手の不正使用

 「サッカーは人間がするもの。テクノロジーには頼らない」
 3月6日、サッカーのルールを決める機関である国際サッカー評議会(IFAB)はゴール判定装置やビデオ判定などを今後の検討の対象から完全に除外することを決めた。
 今季ヨーロッパの大会で実験が行われている両ゴール裏の「追加副審」については、5月に特別会議を開いて実験を続けるかどうかを決めるが、どのような結論になっても、ことしのワールドカップでの起用はない。
 昨年に続きことしも大きなルール改正はない。ただ、同チームの選手同士が衝突して複数の選手が負傷した場合には、ピッチ内で治療できることとした。ルールの根本精神のひとつである公平の観点からの改正だ。
 さて同じ日、日本ではJリーグが開幕。私は鹿島対浦和を取材したが、逆に「大きなルール改正?」と思いたくなる判定を見た。
 ことし、日本サッカー協会の審判委員会は手の不正使用の撲滅を宣言した。
 近年、攻守両面で手や腕を不正に使う行為が横行している。相手のユニホームをつかむ。体を入れられそうになったら腕で押しのける。抜かれそうになったら相手の腕をつかんで引っ張る...。
 Jリーグだけではない。少年チームにまでこの傾向は及ぶ。反則であることはルールブックに明記されているのだが、勝つための手段として指導されたのか、推奨されたのか。少なくとも看過されてきたのは間違いない。
 しかし昨年、ユース年代の国際大会で日本選手の手の不正使用が厳しく指摘された。反則を取られて大きな不利益もあった。そこで撲滅宣言が行われ、こうした行為を見逃さずに反則をとるよう、Jリーグの担当審判員に指示が出たのだ。
 手の不正使用をなくすことは、サッカー発展の重要な要素だ。損得の問題ではない。手の不正使用は攻守両面で技術の向上を妨げるものだからだ。
 だが、鹿島対浦和では、ただ手が相手の体にかかっているだけで反則にする場面が何回も見られた。これは行きすぎではないか。反則にするのは、相手の突破を止めたり、相手のバランスを崩すなど、それによって明らかに利益を得た場合に限るべきだと思う。
 きまじめさは日本の審判員の美質であり、大きな長所だが、押されたり引っ張られたりした選手がなおもプレーを続けようとしているときに笛で止めてしまうのは、試合の魅力をそこねるものだ。
 
(2010年3月10日)
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1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

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