サッカーの話をしよう
No.784 Jリーグ 怠慢な行為の一掃を
先週土曜日の平塚競技場。競り合いの後ピッチに倒れたままの湘南DF山口貴弘。西村雄一主審が走り寄っていく。だが湘南のドクターは西村主審の合図を待たずにピッチに走り込んだ。山口選手の様子を見た相手チーム新潟のDF内田潤が、「早くきて!」と合図をしたからだ。
「対戦相手も同じサッカーをする仲間」。迷うことなくドクターを呼んだ内田選手の態度は、見ていて気持ちの良いものだった。
開幕1カ月、Jリーグは4節まで進んだ。スペインからMF中村俊輔が復帰した横浜FMが人気を呼んでいるが、全般的には観客数は昨年とほぼ同じ。どのクラブも観戦環境の改善に努めているもののファン増加には結び付いていない現状だ。
Jリーグがスタートして17年。競技レベルは飛躍的に上がっている。しかしスタート当初と比較すると、最近の試合には「伝わってくるもの」が少ないように感じる。あの当時はどの試合にも異常なまでの熱気があった。スタジアムに人を吸い寄せたのは、間違いなくその熱気だった。
「熱気」は、選手たちの「心意気」と言い替えてもいい。毎試合毎試合、選手たちは人生をかけたようなプレーを見せていた。ひたすら相手ゴールを目指し、90分間にすべてを注ぎ込んだ。あのころファン層が一挙に広がったのは、選手たちの心意気を多くの人が感じ取ったからだった。
試合運営の努力だけでは限界がある。観客を増やすには、肝心の試合自体で、ファンの心をわしづかみにしなければならない。
何よりも、現在のJリーグにまん延している怠慢な習慣を一掃する必要がある。
CKやFKになったら、守備側も攻撃側も走ってポジションにつき、時間をかけずにリスタートする。守備もすみやかに規定の距離(9・15メートル)離れる。交代時には点差に関係なくきびきびと走って退出する。ファウルを受けてもケガをしたのでなく痛いだけならすぐに立ち上がる...。
技術も才能も必要はない。誰にもできる簡単なことだ。必要なのは、クラブやJリーグの存亡が自分自身の行動にかかっているという自覚を、選手自身がもつことだけだ。
先週土曜の湘南×新潟は、冒頭で紹介した内田選手のような成熟した人間的な判断に基づく行為とともに、相変わらずの怠慢が交錯した。ここから怠慢な習慣を差し引いたら、17年前をはるかに凌駕する、心躍る試合になるはずなのに...。
(2010年3月31日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。