サッカーの話をしよう
No.789 第3GK・川口能活
考えに考えた末だったのだろう。ワールドカップ出場メンバー発表の席上、日本代表の岡田武史監督は、手にしたリストに目を落としながら、ゴールキーパーの3人目に川口能活(34)の名を挙げた。
過去3回のワールドカップで試合に出場した日本のGKは2人だけ。98年フランス大会では川口が全3試合に出場し、地元開催の02年には楢崎正剛が4試合プレー、06年ドイツ大会では川口が3試合ゴールを守った。そして今回の南アフリカ大会、再び楢崎が第1GKとして大会に臨む。
23人中ワールドカップ経験者が8人、出場試合数の総計がわずか25というなかで、3人のGKのうち2人が出場4大会目というのは心強い。だが今回は大きく事情が違う。過去3大会、川口と楢崎は「第1」でない場合には「第2」だった。しかし今回の「第2」は川島永嗣。川口は最初から「第3GK」と指定されているのだ。
大会規定により23人のうち3人はGKでなければならない。2人だけだと、第1GKが故障や出場停止の場合に控えGKなしとなるからだ。だが実際には第3GKがピッチに立つことはまずない。06年大会では32チーム中9チームが2人のGKを使い、残りの23チームは1人のGKだけで戦った。3人使ったチームは皆無だった。
だが、いや、だからこそ、第3GKはチームにとって重要な存在となる。大会中、試合に出ていない選手のモチベーションはどうしても下がりがちになる。出場の可能性が最も低い第3GKが明るく元気に練習に取り組み、ベンチから声を出していれば、チームの雰囲気は前向きになり、結束も強まる。
川口は20歳で日本代表となり、22歳でワールドカップに出場、代表出場116試合という大スターである。岡田監督になってからも信頼は厚かったが、一昨年に第1GKの座を楢崎に明け渡し、昨年には選出からももれるようになっていた。そして昨年9月には右足のすねを骨折するという大けがを負った。
だが岡田監督は、呼ばなくなった後も川口の取り組む姿勢をずっと見ていたという。そしてまだJリーグには出ていないものの4月下旬から練習試合には出場している状況を確認し、「第3GKとしてどうしても必要な存在」(岡田監督)と招集を決めたのだ。
11人での戦いではない。「第3GK・川口能活」の存在が、日本代表にチーム一丸の戦いをもたらしてくれるに違いない。
(2010年5月12日)
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