サッカーの話をしよう
No.804 リトルなでしこにヒントあり
今月、最も強い衝撃を受けたのは、日本代表でもチャンピオンズリーグでもなかった。カリブ海の島国で開催中の世界大会でのU-17日本女子代表の試合ぶりだった。
トリニダードトバゴで9月5日に開幕したFIFA U-17女子ワールドカップ。日本はグループリーグ初戦でスペインに1-4の完敗を喫したが、その後ベネズエラとニュージーランドに連続して6-0の大勝。2位で決勝トーナメントに進んだ。そして準々決勝ではアイルランドに2-1で競り勝った。
同じアジアの北朝鮮を相手にした準決勝は日本時間できょう22日の午前8時キックオフ。本稿締め切り時点では結果はわからない。だが結果はどうあれ、今大会の「リトルなでしこ」のプレーが日本サッカーの未来に与える示唆は重要だ。
U-17日本女子代表は2年前のニュージーランド大会でもセンセーションとなり、FW岩渕真奈が大会MVPに選ばれた。しかし今回はチーム全体がさらにレベルアップし、破壊力を増した。
チーム全員での攻撃と守備、切り替えの速さ、コンビネーションと助け合いは、日本サッカーの定番。それに加え、今回は個々の圧倒的なキープ力と「つなぎのドリブル」というこれまでにない武器をもっている。
たとえ2人、3人の相手に囲まれてもあわてず、なんとか切り抜ける技術。そして何よりも、自分の前にスペースがあれば果敢にそこにはいっていくドリブルが圧巻だ。パス、パスではなく、間に短いドリブルがはいるから、相手の守備は引きつけられ、周囲の味方がフリーになり、次のパスが効果的になる。
次々と強烈なシュートを叩き込んでいるFW横山久美の活躍も、こうして執拗(しつよう)なドリブルとパスで相手の守備のバランスを崩した結果、生まれたものだった。
集団での攻守とパスワークは日本が世界と戦うときの重要な要素だった。しかしことしのワールドカップ南アフリカ大会では、多くの国がそれをベースとし、その上にそれぞれの国の特徴を打ち出していた。では今後、日本はどんな特徴で勝負しようというのか。
その大きなヒントが今回の「U-17女子」にあるように思う。ドリブルで攻め崩すということではない。局面を打開し、相手を引きつけるドリブルを有効に使える選手をそろえることで、積み上げてきた「日本のサッカー」が一挙に花開くのではないだろうか。
(2010年9月22日)
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