サッカーの話をしよう
No.806 新時代の日本代表GKは?
「敷地が200平米もあるんだ」
友人が郊外に家を建てることを考えていると言う。なかなかの豪邸らしい。だが、「ペナルティーエリアの3分の1ぐらいの広さだな」と言うと、露骨に嫌な顔をされた。
攻撃側がそこにボールを運ぶのは簡単ではない。だがペナルティーエリアは意外に大きい。奥行き16・5メートル、幅40・32メートル。広さは665・28平方メートル、約201坪。こんなに広い敷地をもった豪邸はそう多くはない。
ピッチの両端にペナルティーエリアが描かれ、ゴールキーパー(GK)が手を使える範囲がその中に限定されるというルール改正が1902年。以来百余年、GKたちはひとりでこの豪邸を守る仕事を任されてきた。本当なら猛犬の3頭もほしいところだが...。
だが現代のGKの難しさは、守るべき範囲の広さだけではない。11人目のフィールドプレーヤーとして、味方からパスを受け、適切に攻撃を展開する能力が、ますます必要とされているのだ。
10月に行われる2つの親善試合に選ばれた日本代表GKは、川島永嗣(リールセ)、西川周作(広島)、権田修一(FC東京)の3人。川島27歳、西川24歳、そして権田21歳という若いトリオだ。西川と権田は、ともに1試合しか日本代表での出場経験がない。
ことしのワールドカップの直前に川島が楢崎誠剛(名古屋)に代わってレギュラーになるまで、日本代表のGKは、13年間の長きにわたって川口能活(磐田)と楢崎の2人で9割以上の試合を戦ってきた。楢崎の「日本代表引退宣言」により、代表GKの座は混沌(こんとん)としていると言ってよい。
ワールドカップで全4試合に出場して自信をつけ、いまはベルギー・リーグで活躍する川島が軸になるとしても、彼が故障や代表に参加できないときに誰がゴールに立つのか、できるだけ早く確立する必要がある。
GKにどんな資質を求めるかは監督によって違う。しかし現在のルールを考えればゴールライン上で守るだけのGKでは足りないのは明白だ。ザッケローニ監督が西川と権田に目をつけたのは、ペナルティーエリア全域をカバーするスタイルと攻撃につなげる能力を考えてに違いない。
北京オリンピックで全試合に出場した西川か、将来性豊かな権田か、それとも今回招集されなかった他の誰かか―。新監督が「豪邸の番人」をどう見極めるのか、注目したい。
(2010年10月6日)
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