サッカーの話をしよう
No.814 20歳の成熟 浦和スチュワード
18シーズン目のJリーグが終わった。名古屋が念願の初優勝を果たしたが、大宮の観客数水増しが発覚するなど、数々の苦悩が交錯した年でもあった。
来年、Jリーグは法人化20年目を迎える。「成人式」を目の前に、Jリーグはどう成長したのだろうか。
当初10だった加盟クラブ数は、来年、ガイナーレ鳥取を加えて38となる。「体」は確実に大きくなった。だがJリーグの理念である「スポーツによる幸せな国づくり」はどこまで実現したのか...。
そんなことを考えているとき、浦和レッズの「スチュワード」たちと出会った。試合日に運営の手伝いをしている人びとだ。
浦和にスチュワードが誕生したのは95年。クラブから独立して運営されている後援会の個人会員のなかから志願者を募り、以後、浦和の試合運営に欠くことのできない存在となった。「10年選手」も珍しくないから、スタジアムのこと、運営のきまりなど、クラブスタッフの若手より詳しいことさえある。
埼玉スタジアム内外の7カ所に設けられたインフォメーションデスクで観戦者の案内に当たるほか、座席への誘導、障害をもった観戦者のサポートなどの多岐にわたる業務を、試合ごとに40~50人でこなしている。
「観客全員が『きてよかった』と思えるようにお手伝いをすること」と心得を語るのは佐藤亜紀子さん(41)。
「アウェーゲームにも必ず行く」わけは、ホームではまったくプレーを見ることができないからと笑う。
「勝った試合の後、うれしそうに帰っていくお客さんの表情を見るのが好き」と話す池滝憲治さん(49)と久枝さん(48)は8年前から夫婦で活動している。
大学4年の長女もスチュワード。現在高校1年で学校のサッカー部に所属している次女にも「数年後には...」と期待している。海外出張が多い池滝さんだが、家族間の話題には不自由しないという。
ヨーロッパで試合に行くと、そろいのジャンパー姿のおじさんボランティアが町のあちこちから三々五々集まってくるのを見る。彼らは何の打ち合わせもなくそれぞれの持ち場につき、案内や座席ガイドなどをこなす。どんな質問にも的確な答えが帰ってくるのに驚くと、「何十年もやってるからね」と平然とした顔を見せる。
浦和だけではない。そんな文化が日本中にも根付きつつある。それこそ、Jリーグが「成人」に近づいている証拠に違いない。
(2010年12月8日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。