サッカーの話をしよう

No.817 鹿島アントラーズ 伝統と敬服すべき勝負強さ

 キャプテンの小笠原満男が、この試合で引退する大岩剛に天皇杯を手渡す。大げさな身ぶりから大岩がカップを掲げると、サポーターだけでなく、ピッチ上で手をつないだオズワルド・オリヴェイラ監督をはじめとするスタッフたちもいっしょになって万歳をした。その姿には、苦しみの末につかんだ本物の喜びがあふれていた。
 11年元日、鹿島アントラーズは10年シーズンの最後を天皇杯優勝という最高のタイトルで締めくくった。
 07年から続いてきたJリーグ3連覇の偉業は昨年ピリオドを打たれた。だがそれでも鹿島は「勝つ」ことをあきらめなかった。その姿勢が、天皇杯制覇へとつながった。
 圧倒的に強かったわけではない。それは3連覇が始まった07年から同じだった。
 1試合だけなら鹿島は王者にふさわしい。だがひとつのシーズンを戦い抜くには11人では足りない。疲労、負傷、出場停止、そして過密日程...。チャンピオンになるには選手層の厚さが必要不可欠な要素なのだ。にもかかわらず、鹿島の選手層はけっして厚いとは言えなかった。
 07年のJリーグ優勝は奇跡的な追い上げによるものだった。だがこの選手層では2シーズンはもたないだろうと思った。予想どおり翌シーズンの半ばにはノックダウン寸前となった。だが大崩れはせず、最後には優勝を手中にした。そうしたシーズンが2年続いた。
 今季は守備の要だった韓国代表の李正秀(イ・ジョンス)と日本代表の内田篤人がシーズン半ばに海外に移籍、「台所事情」はさらに苦しくなった。
 「相手のほうが戦力が整い、何人かの優れた選手がいることを認めたうえで、それを抑える作業をまずみんなでやろうと話した」
 清水エスパルスを2-1で下した天皇杯決勝戦後、オリヴェイラ監督はそう語った。
 「戦力はたしかに限られている。だが選手たちの規律、チームで決めたことをやり抜こうという気持ちは、どこよりも強い」
 「そしてクラブが、私たちが集中して仕事に取り組める環境をつくってくれた」
 ピッチの中の戦いだけでなく、ピッチ外を含めたクラブの総合力で勝ったというのだ。
 あるJリーグ・クラブの監督は、「継続性こそ、鹿島の力だ」と話した。クラブのスタート時の92年にジーコが礎を築き、その路線をかたくななまでに守ってきた。以来19年、それは見事に「伝統」となり、敬服すべき勝負強さとなった。
 
(2011年1月5日)
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