サッカーの話をしよう

No.818 イスラム圏のワールドカップ

 カタールでアジアカップが開幕した。
 アラビア半島の東岸、ペルシャ湾に突き出た人口約141万の小さな国。国土の面積が秋田県とほぼ同じであることは、昨年12月、2022年のワールドカップ開催国に決まってからよく知られるようになった。
 そう、カタールは、サッカーの世界でいま最も注目されている国である。まだ11年も先のことなのに、欧州メディアは「予行演習」と気が早い。
 18年大会開催国がロシアとなったこと以上に、22年大会のカタール開催決定は驚きをもって迎えられた。
 32チームの大会を開催するには少なくとも10程度の会場都市が必要。ところがこの国には、都市と呼べるものはドーハとその周辺の首都圏しかない。
 さらに6月から7月にかけて、カタールは日中の気温が40度という猛暑に見舞われる。「スタジアム全体の冷房」という大胆な提案も、ワールドカップが単なるサッカーの大会でなく世界中から人が集まって1カ月間続くお祭りであることを考えれば、十分とは言えないだろう。
 ところが国際サッカー連盟の理事会はアメリカ、韓国、日本、オーストラリアの提案を退け、カタール開催を決めてしまったのだ。「理事たちがオイルダラーで買収された」という反応も多い。
 もし私が理事だったら、もちろん別の国に一票を投じただろう。だがそれは「これまでの常識」に基づく判断に過ぎない。日韓共同開催も、南アフリカ大会も、当初私は大反対だった。だが終わってみれば、両大会とも世界中のファンを心から楽しませた。
 「カタール開催」をポジティブに考えれば、小国でも開催が可能であること(といっても財力は必要)、大会時期を考え直す好機であること、何より、イスラム圏での初めてのワールドカップであることなど、今後の世界にプラスになりそうな点はいくつもある。
 過去19回のワールドカップ。日韓大会以外はすべてキリスト教国での開催だった。都市大改造が急速に進みつつあるドーハには、22年までに近代的なビルが林立するだろうが、イスラム社会であることは変わらない。世界の人びとがワールドカップを通じてイスラム文化を知り、尊重し、そしてともにサッカーを楽しむことは、21世紀の人類にとって小さからぬ意味をもつのではないか―。
 1月の穏やかな気候のドーハでアジアカップを楽しみながら、そんなことを考えた。


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ハリファスタジアム(カタール
 
(2011年1月12日)
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス

サッカーの話をしようについて

1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

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