サッカーの話をしよう
No.820 新しいカタール アバヤ姿の女性の社会進出
カタールで開催されているアジアカップで生まれて初めての経験をした。アラビアの女性と話をしたのだ。
93年のワールドカップ予選以来、毎年のようにアラビア半島の国にきているが、外国人労働者を除く現地の女性と話した経験はまったくなかった。
アラビアの女性は外出時には「アバヤ」と呼ばれる黒い長衣に身を包んでいる。ベールをかぶり、人によっては顔の大半を隠し、目だけ出している。けっしてひとりでは出歩かず、外国人男性と話すことなどない。
だが今回のアジアカップでは、メディアセンターでアバヤ姿のたくさんのアラビア女性がボランティアとして活動しており、いろいろ助けてもらうなかで自然に話ができた。
サルマさんはサウジアラビアからドーハの大学に留学している法学部の学生。
「いまも年寄りたちは、女性は外に出てはいけない、いろいろなことに意見を言ってはいけないと言います。でも女性でも男性と同じように仕事ができるし、社会に出ていくことができるようになってきました。私は、こうして世界のあちこちからきたメディアの人びとと話すことで、いろいろなことを学んでいます」と話す。
「男性社会」に女性が進出する姿は、ファンの間にも見ることができる。かつてはサッカースタジアムでアバヤ姿の女性など見ることなどなかった。しかし今大会、とくに地元カタールの試合では、アバヤ姿の女性観客をたくさん見かけた。
「以前も女性はきていましたが、一般席からは隔離された『家族席』での観戦に限られていました。しかし今大会は、女性のグループで観戦にきている人が一般席にもたくさんいますね。もちろんひとりできている人はいないと思いますが」
そう語るのは、地元組織委員会のイッサ・モハメドさん。
「アジアカップやワールドカップを成功させるには、女性の力が欠かすことのできない要素です。ボランティアの人びとだけでなく、新聞社のカメラマンとしてアバヤ姿のままピッチで写真を撮っている人もいますよ」
イスラムの戒律の厳格さは国によってずいぶん違うが、女性の社会進出がアラビア社会の静かな潮流となっているのは間違いない。そしてそうした流れを加速させている要因の一翼を、06年のアジア大会、今回のアジアカップ、そして22年ワールドカップといったスポーツの国際大会が担っているのも確かだ。
(2011年1月26日)
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