サッカーの話をしよう
No.824 宮市亮の才能、止まる
右サイドで驚異的な粘りを見せた味方選手のおぜん立てが7割、彼自身のシュートが3割という得点だった。だがそれにしても、クロスを胸で止め、とび込んでくる相手選手を冷静にかわして左足を振り抜いたシュートは見事だった。
2月12日、オランダリーグのフェイエノールト対ヘラクレス。移籍して2試合目の宮市亮(18)が、前半18分に先制点を決めた。
愛知県岡崎市出身。中京大附属中京高校2年時の09年にU-17日本代表で活躍、100メートル10秒台のスピード突破で目を引いた。そして昨年12月14日、18歳の誕生日を迎えた日にイングランドのアーセナルとプロ契約を結んだ。
英国では欧州連合(EU)外の選手はA代表でないと就労ビザが下りない。そこでアーセナルは1月31日にフェイエノールトに期限付きで移籍させた。
もちろんプロだが、まだ高校の卒業式も済んでいない。その18歳が、リーグ下位に沈むフェイエノールトの攻撃を活気づかせた。2月6日にデビュー、高評価を受け、2試合目のヘラクレス戦で早くもゴールを決めてチームを2カ月ぶりの勝利に導いたのだ。
左ウイングでプレーする宮市。スピードあふれるドリブル突破が大きな魅力だが、ヘラクレス戦ではそれ以上の才能を見せた。「ストップ」の能力だ。
後半、右からのクロスが中央に詰めた宮市と合わず、左に流れたボールを追ったシーンがあった。左コーナー付近で追いついた宮市は、右足でボールを抱え込むようにしながらターンすると、次の瞬間には上半身をすっと立ててリラックスし、懸命に追ってきた相手に対面していた。
速い選手、スピードドリブルで突破できる選手はいくらでもいる。しかし守備側にとって何より怖いのは、トップスピードから一瞬で完全にストップできる選手だ。そのストップひとつで、守備側の状況がすべて変えられてしまうからだ。
宮市はクリスティアノ・ロナルド(ポルトガル)にあこがれているという。しかし一瞬で止まり、ターンした彼の姿に重なったのは、オランダが生んだ史上最高の選手、ヨハン・クライフだった。
クライフはフェイエノールトのライバル、アヤックスの選手として知られているが、選手生活の最後に1シーズンだけフェイエノールトでプレーした。そして10年ぶりのリーグ優勝に導いた。
残留争いで苦しむ今季のフェイエノールト。18歳の宮市にかけられた期待は大きい。
(2011年2月23日)
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