サッカーの話をしよう
No.829 クラシコに血が騒ぐ
「クラシック」とカタカナで書くと、「古い」というニュアンスを感じる。だが西欧の言語では「最高級」というイメージのほうが強いという。
スペイン・サッカーの「エル・クラシコ」、レアル・マドリードとFCバルセロナの対戦は、文字どおり最高クラスの対決だ。
国内リーグ31回、欧州チャンピオンズリーグ9回。ともに最多優勝を誇るレアル。最近タイトルから遠ざかっているが、クリスティアノ・ロナルド(ポルトガル代表)など世界的な名手を並べ、巻き返しを図っている。
バルセロナはいま世界の最高峰のクラブ。昨年のワールドカップで優勝したスペイン代表の中核にメッシ(アルゼンチン代表)の天才を加えた攻撃の鋭さは注目の的だ。
国内リーグでは毎シーズン2回の対戦がある。今季最初の「クラシコ」は昨年11月に行われ、ホームのバルセロナが夢のようなプレーを見せて5-0で大勝。そのリターンマッチが、今週土曜日、16日に行われる。首位と2位の対戦。レアルが逆転優勝するにはここで勝つしかない。
1899年にバルセロナ創立。少し遅れて1902年にレアルが誕生すると、その年に始まったスペイン国王杯準決勝でさっそく対戦、「3年の長」のあるバルセロナが3-1で勝った。以来公式戦だけで200を越し、成績はほぼ互角だ。
独自の言語をもち、20世紀初頭から独立運動が絶えないカタルーニャ地方のシンボルであるバルセロナ。一方レアルは20世紀半ばに長期間独裁政権を敷いたフランコ総統に愛されたクラブ。スペイン・ナショナリズムの象徴でもある。互いの背景から「クラシコはスペイン内戦(1936~39)の再現」と表現する人までいる。
スペイン人にはそれぞれに地元のひいきクラブがある。だが「クラシコ」はまったく別もの。ある調査によればスペイン国民の32%がレアルのファンで、25%がバルセロナを応援しているという。
いまスペインの人びとが、日本人が桜の満開を待つかのように落ち着かないのは、この「クラシコ」が短期間に2回、いや、多分4回も実現するからだ。
土曜日のリーグ戦に続き、来週水曜日(20日)には「国王杯」の決勝戦で再び相まみえる。そしてその翌週と翌々週にはチャンピオンズリーグ準決勝での対戦も決定的だ。
歴史と伝統、そしてプライドと意地が激突する「クラシコ」。スペイン人でなくても血が騒ぐ。
(2011年4月13日)
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