サッカーの話をしよう

No.830 Jリーグ「第2の開幕」

 「元どおりの生活を取り戻したい」
 いま、東北地方や関東地方の数え切れない町や村で、どれほど多くの人がその思いを抱き続けていることか。
 過分な夢ではない。人間としてごく当然の思いにすぎない。それを約束し、安心させることこそ、政治の役割だと思うのだが...。
 約50日間の中断を経て、今週末にJリーグが再開される。3月に第1節を消化しただけで中断されたのだから「第二の開幕」と言うことができる。だがその日が近づくにつれ、「2011シーズンを再開するというだけではだめだ」という思いが強くなってきた。
 Jリーグは1993年に誕生し、以後18シーズン、スタジアムに延べ1億を超す人を集めてきた。この10年間は各クラブのホームタウンでの活動も充実し、クラブは地域の誇りとなり、楽しみや喜びをもたらしてきた。
 だが未曾有の大震災を経たいま、Jリーグとそのクラブには、さらに大きな役割があるのではないか―。もちろんホームタウンとの絆はさらに密にしなければならない。だが同時に、日本を代表するプロサッカーリーグとして、広く日本全国の人びとに喜びをもたらす存在にならなければならないはずだ。
 そのために何が必要か、答えは18年前のJリーグ自体にある。
 93年、日本中がJリーグに熱狂した。多分にメディアがつくったブームの要素はあったが、見た人の心をとらえたのは、Jリーグのピッチから異様と思えるほどの熱気が伝わってきたからに違いない。技術・戦術は未熟でも、この年、あらゆる選手が例外なく90分間に自らのエネルギーを燃やし尽くすプレーを見せていた。
 「第二の開幕」。それは2011シーズンのことではない。これまでの18シーズンとはいったん区切りをつけ、新しいJリーグを創設する意気込みと覚悟をもったものであってほしいのだ。
 3月11日を境に変わってしまった国。前に進み、被災した人びとが「元どおり」の生活を取り戻すためには、日本という国が以前と同じ歩みを進めていたのでは間に合わない。政治があてにならないのなら、一人ひとりの国民がより強くより良い人間になることで、日本をより豊かな社会にするしかない。
 Jリーグも例外ではない。全選手が強い責任感をもち、豊かな社会づくりへの役割を自覚して、「第二の開幕」に臨んでほしいと強く思うのだ。
 
(2011年4月20日)
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1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

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