サッカーの話をしよう

No.832 大逆転勝利

 先週のJリーグ、福岡を相手に前半0-2とリードされた横浜が後半に3点を取って逆転勝ちした。後半11分に投入された18歳のFW小野が終盤に2得点し、雨のなか詰め掛けた1万3520人のファンを熱狂させた。
 「逆転勝利」は簡単ではない。昨年のJリーグ全306試合で逆転勝利は30試合。今季、これまでの4節でも33試合のうち逆転勝利は4試合だけだ。
 ただしその大半は1点差からの逆転。2点差からとなると、昨年は2試合だけ。先週の横浜の逆転劇は、めったに見られないものだったのだ。
 だが150年に近いサッカーの歴史には、なんと4点差からの逆転勝利がある。しかも残り30分、10人で...。
 1957年のイングランドリーグ2部、チャールトン・アスレチック対ハダースフィールド。チャールトンは前半10分にDFアフトンが肩を脱臼して退場。交代が認められていない時代、残り80分間を10人で戦わなければならなくなった。
 前半は2失点のみで抑えた。だが後半立ち上がりにFWサマーズが1点を返すと、逆に相手の攻撃の猛火に油を注ぐ結果となった。後半17分までに連続3失点、1-5と大差をつけられたのだ。
 当時のチャールトンのホームは7万人収容。だがこの日、観客はわずか1万2500人だった。その一部は前半だけでスタジアムを後にし、失点を重ねるうちにさらに多くの人が席を立った。しかし来なかったファンや早々と帰路についたサポーターは大いに悔やむことになる。
 4点差でハダースフィールドがゆるんだ。後半18分にFWライアンが1点を返すと、その後はサマーズのひとり舞台。大きな体で相手を押しのけるようになんと4連続得点。後半36分に6-5とひっくり返した。いちどは同点になったが、チャールトンは後半44分にライアンが7点目を決め、7-6の大逆転勝利を飾ったのだ。
 スタジアムに残っていた数千人のファンの興奮ぶりはどんなだっただろうか。
 ひとつだけ言えることがある。その興奮、チームとの一体感は、スタジアムに行かなければ絶対に味わえないということだ。逆転勝利は10試合に1回。大逆転は何十年に1回かもしれない。だがそうした試合に出合えたらファンとして一生誇りにできる宝になる。
 次の週末には、歴史に残るドラマチックな逆転劇が待っているかもしれない。さあ、スタジアムに行こう!
 
(2011年5月11日)
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1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

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