サッカーの話をしよう

No.833 ヨーロッパで認められた日本サッカーの総合力

 先週土曜、ドイツ・ブンデスリーガの2010/11シーズンが終わった。
 優勝を飾ったドルトムントでは、ようやく故障の癒えた香川真司が試合終盤に出場して万雷の拍手を浴び、前節初得点を記録したばかりのシュツットガルトの岡崎慎司は強豪バイエルンを相手に見事な先制点を叩き込んでチームメートにもみくちゃにされた。
 昨年のいまごろ、ブンデスリーガでプレーする日本人選手はヴォルフスブルクの長谷部誠ただひとりだった。ところがいま、2部を含めると8人もの選手が、世界で最も多くの観客を集めるこのリーグでプレーしている。しかもその多くがチームに不可欠な選手として信頼を受け、活躍しているのだから、うれしい限りだ。
 昨年のワールドカップ時には23人の日本代表選手中わずか4人にすぎなかったヨーロッパ・クラブ在籍選手が、いまでは10数人にまで増えている。イタリアの超名門インテル・ミラノでは長友佑都が活発な動きで確固たる地位を築き、イングランドのレスターでは阿部勇樹が堅実な攻守で信頼を勝ち得た。
 日本代表選手だけではない。ことし正月の高校選手権を終えた直後にヨーロッパに渡った宮市亮は、オランダの名門フェイエノールトを降格の危機から救う活躍を見せ、一躍全ヨーロッパから注目される存在となった。
 かつて、ヨーロッパのクラブで主力になれるのは、日本代表でもほんの一部の特別な能力をもった選手だけだった。中田英寿、小野伸二、中村俊輔...。3人とも攻撃的MFで、高い技術を生かしてチャンスをつくった。
 ところが現在ヨーロッパで活躍しているのは、GK、サイドバック、守備的MF、FWと実にさまざまなポジションの選手たちだ。特殊な能力ではなく、守備力を含め日本のサッカーの総合的な能力が世界に認められたことを意味している。
 そしてそれは世界のサッカーの潮流と無関係ではない。世界のサッカーは強烈な「個」を求めながらも、集団的なプレーの密度を急速に高めつつある。そうしたなかで、日本選手の規律や集団プレーのセンスが、チームの重要な要素と評価されるようになったのだ。
 今季終盤の活躍でひとつの壁を乗り越えた岡崎は、来季のブンデスリーガを沸かせるスターのひとりになるだろう。そしてドイツを筆頭としたヨーロッパの主要リーグで、さらに多くの日本人選手が活躍するに違いない。
 
(2011年5月18日)
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1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

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