サッカーの話をしよう
No.835 バルサの時代
「バルサの時代」を象徴する勝利だった。
5月28日、FCバルセロナ(スペイン)はUEFAチャンピオンズリーグ(UCL)決勝でマンチェスター・ユナイテッド(イングランド)に3-1で快勝、4回目の優勝を飾った。シュート数16対3、ボール支配率63%対37%。スコア以上の圧勝だった。
06年、09年に続き、21世紀にはいって3回目の優勝。さらに言えば、このバルセロナの選手を中心とし、バルセロナのスタイルで戦うスペイン代表が、08年の欧州選手権、10年のワールドカップと連続して国際大会を制している。まさに「バルサの時代」だ。
バルセロナの細かなパスワークを断ち切ろうと、ユナイテッドはキックオフから激しくプレスをかけた。序盤はその勢いに圧倒されたように見えたバルセロナだったが、15分が過ぎるとペースをつかみ、そのままボールを支配して押し切った。
「ポゼッション(ボールを保持する)サッカー」。バルセロナのスタイルはそう表現される。しかしただパスを回すだけのサッカーではない。
ゲーム分析を専門とする庄司悟さんによると、バルセロナのプレーには「1アクション・3リアクション」を引き出すパスが隠されているという。「リアクション」とは相手チームの「反応」。バルセロナは、1本のパスで相手選手を3人も引きつけてしまうことがあるというのだ。
多くのコーチが局面で「数的優位」の状況を生むことに心血を注いでいる。攻守両面でボールの周囲に相手より多くの選手を投入できれば、負けることはないはずだからだ。
だが肝心なところで数的優位をつくるには逆にどこかで「数的劣勢」が必要になることに気付かなければならないと、庄司さんは話す。1本のパスで3人を引きつける(意図的に数的劣勢の状況をつくる)から、ゴール前など決定的な場面で数的優位ができる。
06年のUCL優勝時には決勝戦の先発11人のうちスペイン人選手はたった3人だった。それが09年には6人、今回は7人もいた。アルゼンチンのメッシを含め、シャビもイニエスタもクラブのユース育ち。革命的と言っても過言でないサッカーを、バルセロナはユース時代からの練習を通じて生み出したのだ。
プレーのスタイルからチームづくりの手法まで、バルセロナは、今後の世界のサッカーに、大きな、そして好ましい影響を与えるに違いない。
(2011年6月1日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。