サッカーの話をしよう
No.841 チームで取った得点
「私が得点した形になったのですが、本当にチームのみんなで取ったゴールです...」
ドイツで行われているFIFA女子ワールドカップの準々決勝、3連覇を目指す開催国ドイツを延長戦で下すゴールを決めた女子日本代表(なでしこジャパン)のFW丸山桂里奈(千葉)。試合直後の言葉だ。
サッカーはあくまでもチーム競技。どんな超人的な選手でも、ひとりでは試合に勝つどころか試合さえできない。チームがなければ「サッカー選手」は存在すらできないのだ。
当然、試合結果だけでなく得点も失点もチーム全体のものだ。ピッチ上でプレーした選手だけでなく、試合の準備をし、勝つために力を合わせてきた「チーム」という人間の集合体のものだ。
ところが「得点王」といった個人を表彰する慣習があるせいか、得点は個人のものと考えている人が少なくない。報道関係者にその考えがまん延しているのは本当に困りものだが、サッカーという競技を知り尽くしているはずの選手たちまでそう考えているとしたら、見過ごせない。
試合後、決勝点を決めた選手がインタビューを受けている。
「○○選手のおかげで、感謝しています」
アシストのパスを送った選手の名を挙げ、いかにも謙虚な姿勢に見える。だがその実、彼はその得点を「自分のもの」と思っていることがわかる。チームのものであれば、チームメートに感謝する必要などない。
ドイツを下した一撃は本当に見事だった。ボールを拾った左サイドバックの鮫島彩がセンターバックの熊谷紗希にバックパス。熊谷から右のセンターバック岩清水梓へ。相手が猛烈なプレスをかけるが、岩清水はワンタッチで前線に送る。下がってきたFW岩渕真奈が見事なコントロールをしながらターン。そこにサポートしてきたMF澤穂希は、迷わず浮き球で相手DFラインの裏に送る。
ここで丸山が登場する。巧妙なランニングでオフサイドになるのを避けた丸山は、ボールに追いつくと思い切り右足でシュート。右の角度のないところからだったが、ボールはドイツGKの肩口を破ってゴールに吸い込まれた。
チームでつないだすばらしいゴール。そして何よりも、試合直後の興奮のなかで「みんなで取ったゴール」と話した丸山の態度には、本物のチームプレーを体現する「なでしこらしさ」があった。
(2011年7月13日)
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