サッカーの話をしよう
No.844 有料試合で成長のきっかけに
「なでしこフィーバー」が止まらない。
今週日曜、なでしこリーグのINAC神戸対岡山湯郷の一戦にはなんと2万1236人もの観客が集まった。
この週末に行われたJリーグ全19試合でこの数字を上回ったのはC大阪対鹿島(2万8039人)だけ。ことし女子ワールドカップの32試合に総計85万人を集めたドイツ。その女子ブンデスリーガでトップのフランクフルトでさえ、昨シーズンのホームゲーム11試合の総計で2万0951人。INAC神戸対岡山湯郷に及ばない。「2万人」がどれだけすごい数字かわかる。
ただしこの試合は入場無料。入場料収入はゼロである。有料試合にするとスタジアム使用料が急騰するため、なでしこリーグでは総試合の3分の2ほどが入場無料となっている。これでは選手たちがサッカーで生計を立てる(プロになる)ことなどできない。
もちろんプロと言っても実情はさまざま。1999年のスコットランド・リーグカップ1回戦では、入場者なんと69人という試合もあった。女子サッカーではない。ホームチームは2部ながられっきとしたプロだった。
ホームチームはクライドバンク。役員は「帆船レースのスタート日と重なったから」と弁明したが、実はサポーターの組織的ボイコットが原因だった。
数年前にオーナーがスタジアムを売却、以後隣町で試合をしていたのだが、その契約が切れ、こんどは20キロも離れたグリーノックという町のスタジアムを借りることになった。それへの反発だった。
だがプロはプロ。入場料ひとり10ポンド(当時のレートで約1900円)。69人から得られたのはわずか13万円あまりだったが、それでも貴重な収入だった。
これまでのなでしこリーグの観客数は1試合平均数で千人に満たなかったという。だからと言って入場無料ではチームもリーグも成長しない。入場料を払ってもらうことで、リーグもチームもそして選手たちも、これまで以上の責任を負うことになる。その責任感が成長の原動力となる。
そのためには競技場を所有する自治体などの課金制度の改善が不可欠だ。安心して有料試合にできる使用料にする必要がある。なでしこジャパンに関心が集まっているいまこそ、そうした働きかけの好機ではないか。
世界の例を見ても、女子サッカーが簡単にプロになれるとは思えない。だが有料にすることで得られる資金は、競技環境改善の後押しになるはずだ。
(2011年8月3日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。