サッカーの話をしよう
No.855 ルールブックを読もう
ひとりで1試合に3枚のレッドカードを受けた選手がいる。
スコットランド・リーグのアバディーンに所属していたFWディーン・ウィンダス。1997年11月、ダンディー・ユナイテッドとのアウェーゲームでのことだった。
キックオフから1分もしないうちに彼はスチュアート・ドゥーガル主審からイエローカードを示された。そして前半22分に2枚目を出され、自動的にレッドカード(退場処分)となってしまった。
収まらないウィンダスがくってかかる。あまりの暴言に、主審は2枚目のレッドカードを示す。そして彼が腹立ち紛れにコーナーフラッグを抜き取って地面に叩きつけると、世にも珍しい3枚目が出されたのだ。
当然のことながらウィンダスには厳罰が下され、6試合の出場停止処分となった。
今日ではこんなことは起こらない。01年のルール改正で「競技者または交代要員あるいは交代した競技者にのみレッドまたはイエローカードを示す」と明記され、すでに退場になった選手にはカードは出されないからだ。
毎年2月か3月に改正点が決められ、7月1日付けで発効するサッカーのルール改正。それを受けて、日本サッカー協会は毎年夏から秋ごろまでに新年度のルールブックを発行する。正式名称は「サッカー競技規則」だ。
あまり知られていないが、日本は世界一の審判大国。登録審判員はおよそ20万人にも上る。毎年、その全員に配布されているから、ルールブックは「隠れたベストセラー」だ。
だがその一方で、サッカー選手や指導者、報道関係者など「専門家」と呼ばれる人びとの多くがルールブックを読んでいないという驚くべき現実がある。読むどころか、最新版を持ってさえいない人が圧倒的だ。
現在のルールブックは、ルール本体だけでなく、ルールの正確な解釈や細かな事象に審判がどう対処すべきかなどが書かれており、とても興味深い。さらに日本語版だけの付録として、主審と副審の合図(カラー写真)や今年度のルール改正とそれに対する日本協会からの解説など、盛りだくさんの内容だ。
講談社が一般向けに販売しており、最新の2011/12年版は税込みで1575円。書店でもネットでも購入できる。
専門家あるいは熱心なファンなら、年にいちどは新版を購入し、じっくりと読んでみるべきではないだろうか。別に宣伝を頼まれたわけではないが...。
(2011年10月19日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。