サッカーの話をしよう
No.856 ナビスコ杯よ、光になれ
今週土曜日、Jリーグヤマザキナビスコカップの決勝戦が東京で開催される。
浦和レッズ対鹿島アントラーズ。国立競技場が真っ赤に染まる。
Jリーグは91年11月1日に法人設立、翌92年、最初の公式戦として開催したのがナビスコ杯だった。以来95年を除き毎年開催されてきたから、ことしで20年目、第19回ということになる。
だが今回の決勝はこれまでとはまったく意味あいが違う。
2万人に近い死者と行方不明者を出し、いまなお多くの人を苦しめている東日本大震災。Jリーグは開幕直後に中断、このナビスコ杯も大会形式の大幅変更を余儀なくされた。
予選リーグは中止され、1回戦から完全ノックアウト方式の大会となった。総試合数は予定(55試合)の半数弱。大会自体が「被害者」なのだ。
だがそれでも、J1在籍の全18クラブが参加して26試合を戦い、今週土曜に決勝戦を迎えることになった。
浦和はJリーグでは不調に陥り、J1残留争いにもがいている。先週、監督交代もあった。だがナビスコ杯では1回戦から計6試合を戦い抜き、全試合で2点ずつ取ってきた。MF原口元気、山田直輝らユース出身選手が中心となって「新しい浦和」をつくる第一歩がこの決勝戦だ。
対する鹿島は百戦錬磨。準々決勝、準決勝とも延長の後半に決勝点を挙げるという伝統の勝負強さを示した。MF小笠原満男を中心とした経験豊富な選手たちがFW大迫勇也やMF柴崎岳といった急成長の若手を支え、シーズン後半に充実度を増してきた。
浦和と鹿島の決勝対決は8年ぶり3回目。過去は1勝1敗だ。
だが今回の決勝戦はこれまでとはまったく違うものにしなければならない。同じものであってはならない。
震災後、日本人の表情を最も明るくさせたのは、なでしこジャパンの女子ワールドカップ優勝だった。優勝したという事実以上に、あきらめることなく戦い続けた彼女たちの姿が人々の胸を打った。ナビスコ杯決勝にも、同じような力がないわけがない。
この「特別な年」、2011年のナビスコ杯決勝の舞台に立つのは、Jリーグでもほんのひと握りの選手にすぎない。その誇りと、何よりも責任感を、全身全霊をかけたフェアなプレーで表現してほしい。そして国立競技場から発せられるまばゆいばかりの光で、日本中の人々の瞳を輝かせてほしいのだ。
(2011年10月26日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。