サッカーの話をしよう
No.858 百戦百敗のチャンピオン
ワールドカップ・アジア3次予選のヤマ場が迫ってきた。タジキスタン(11日)、北朝鮮(15日)とのアウェー連戦だ。
ワールドカップ出場を続けるのは至難の業だ。予選突破に失敗したことがないのがブラジルとドイツ、世界で2カ国だけという事実がそれを雄弁に語る。
「勝ち続け」の2カ国がある一方、「負け続け」の国もある。過去のワールドカップ出場経験国は76。FIFA加盟国208の約3分の2は、まだ決勝大会出場がない。その「チャンピオン」とも言うべき存在が、ルクセンブルクだ。
欧州中部、ドイツ、ベルギー、フランスに囲まれた内陸国。神奈川県程度の広さの国土に約50万人が暮らし、欧州連合(EU)のなかでトップクラスの生活水準を誇るルクセンブルク。サッカー史はFIFA加盟が1910年と古いが、セミプロしかなく、現在のFIFAランキングは118位。この国のワールドカップ予選の記録が「驚異的」なのだ。
過去行われた18大会のワールドカップ予選のすべてに出場している。そして通算114試合戦って3勝4分け107敗。総得点54、総失点は381にものぼる。まさに「負け続け」の歴史と言える。
初戦は1934年3月。ホームでドイツを相手に戦い、1-9で敗れた。初勝利は実に27年後の61年10月、ポルトガルに4-2で勝った。その後2勝目までにさらに11年。2010年大会予選を前に、ルクセンブルクのワールドカップ予選は通算104試合、敗戦の数はちょうど100になっていた。
10年大会予選の初戦も、アウェーでギリシャに0-3の完敗。だが08年9月10日、第2戦で奇跡が起こる。アウェーのスイス戦。ルクセンブルクは前半27分に33歳のDFシュトラッサーが25メートルのFKを直接決める。いったんは追いつかれたが、後半42分、先制点とほぼ同じ距離のFKをシュトラッサーがこんどは縦に鋭くつなぎ、受けたMFレベックが右から決めて2-1の勝利をもぎ取ったのだ。
実に36年ぶりにつかんだワールドカップ予選3勝目。それは、ルクセンブルク代表の国際試合55連敗という不名誉な記録にピリオドを打つものだった。
「予選敗戦率」94%というチームでも強豪を倒す可能性があるのがサッカーという競技であり、ワールドカップ予選。1カ月前に8-0で勝った相手でもけっしてあなどってはいけないという教訓を、いまさら強調する必要はない。
(2011年11月9日)
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