サッカーの話をしよう
No.862 勝つサッカー
日本で開催されているFIFAクラブワールドカップ(FCWC)、今夜の準決勝で柏レイソルが強豪サントス(ブラジル)に挑戦する。1回戦はオークランド(ニュージーランド)に2-0で快勝、準々決勝ではモンテレイ(メキシコ)に1-1からPK戦4-3で競り勝った。
この1年間の柏の躍進には目を見張るばかりだ。J1昇格1年目ながら開幕から首位を快走。3回首位から落ちたが3回取り戻し、10月から守り通した。
34戦して23勝3分け8敗。注目すべきは、負けや引き分けの直後の試合をすべて勝ったことだ。連続して勝ち点を落としたことが、シーズンを通じていちどもなかった。
「論理的な結果」と、ネルシーニョ監督(61)なら言うだろう。「勝てるチーム」こそ、彼が目指したものだったからだ。
近年、日本では「良いサッカー」が多くの指導者のテーマになっている。「人とボールが動くサッカー」と表現されることも多い。選手同士が連係して動き、どんどんパスが回って攻撃を展開するサッカー。そうしたプレーが日本人に適しており、勝利への道と信じられているからだ。
「負けたが、うちのほうが良いサッカーをしていた」。試合後そう語る監督までいる。
だがブラジル人のネルシーニョにはそんな目標はない。彼は「勝つ」ことを唯一のテーマとする。そしてポジショニング、運動量、パスの精度など、勝つための「スタンダード(標準)」を具体的に示し、それを実現することを要求する。
試合では、しっかりと守備をすること、すなわち相手に得点を与えないことからスタートする。プレーがあらゆる面で「スタンダード」に達したら、思い切って攻勢に転じる。
結果として、ことしの柏は「良い」どころか、すばらしいサッカーを見せて優勝した。故障しにくいコンディションをつくったメディカル面の充実、チーム内競争の激化など、勝因はいくつもある。だが根本的には、「勝つ」ためのチームづくり、選手づくりに徹したことではないか。
そして海外の強豪を相手にしたFCWCでこそ、柏の本当の強さが表れた。準々決勝ではキックオフから30分間は劣勢に立たされたが全員で必死に守り、そこから反撃に転じて先制点を挙げた。
「勝利」という唯一の目的の下に結束し、選手個々の良さを有機的に結び付け、効果的に使いきる柏に、考えさせられる点は多い。
(2011年12月14日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。