サッカーの話をしよう
No.868 新時代のアフリカネーションズカップ
「最後の最後に1点を決めて、ゾウがワニに1−0で勝った。いちどは追いついたウマだったけれど、結局はレイヨウに1−2で逃げ切られたよ」
動物園の運動会ではない。21日に開幕したアフリカネーションズカップの話だ。
アフリカでは各国代表に愛称がある。ゾウはコートジボワール、ワニはスーダン、ウマはブルキナファソ、そしてレイヨウ(羚羊)はアンゴラだ。ファンは好んでそれを使う。
動物王国アフリカ。ずらりと動物名が並ぶなか、「ヒト」もある。カダフィの独裁体制が崩壊したリビアはそれまで「緑」だった代表の愛称を「地中海の騎士」と変えた。
さて、1957年に始まったネーションズカップは今大会で第28回になった。欧州もアジアも地域連盟の選手権は4年にいちどだが、アフリカでは2年ごとに開催されている。
16チームが出場し、2月12日に決勝戦が行われる今大会は、「新時代の開幕」と言われている。過去に優勝歴をもつ強豪が、予選で次々と敗退したからだ。最多の優勝7回を誇るファラオ(王様)=エジプトが予選G組で1勝しか挙げられず最下位に終わったのは、昨年の民主革命の影響だったのだろうか。
エジプトだけではない。優勝4回のカメルーン、2回のナイジェリア、1回のアルジェリア、南アフリカといった強豪国が予選落ちし、過去の27大会で優勝経験をもつ13カ国のうち8カ国が決勝大会に出られなかった。
代わって初出場を果たしたのは、予選を勝ち抜いたニジェールとボツワナ、そして共同開催国のひとつ赤道ギニアである。
予選免除で初出場という、あまり名誉ではない形になった赤道ギニアだったが、開幕戦に登場し、ポルトガルのクラブでプレーするMFバルボアの得点でリビアに1−0の歴史的勝利を収めた。
赤道ギニアはギニア湾に浮かぶビオコ島と大陸部からなる人口70万の小さな国。首都マラボはビオコ島北部にある港湾都市で、18世紀には奴隷貿易の中継港だった。共同開催するガボンは赤道ギニアの大陸部の南に広がる人口147万人の国。首都リーブルビルに人口の半数が集まる。
興味深いことに「赤道ギニア」には赤道は通っておらず、ガボンが赤道直下にある。両国とも石油を産出し、経済状況は良い。
「変わりゆくアフリカ」の姿がこの大会にある。もちろんサッカーもレベルが高く、興味尽きないアフリカネーションズカップだ。
(2012年1月25日)
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