サッカーの話をしよう
No.871 カラー化進むサッカーシューズ
66年ワールドカップ優勝のヒーロー、イングランド代表MFアラン・ボールが初めて白いサッカーシューズをはいてプレーしたのは、1970年8月のことだった。
サッカーが生まれたころ、シューズは革そのものの茶色だった。20世紀にはいって黒が主流になり、ほどなく黒ばかりになって半世紀以上が過ぎていた。そこに現れた白いシューズは、当然、大きな話題となった。
後発のサッカーシューズメーカーH社との2000ポンド(当時のレートで約173万円)の契約で白いシューズをはくことになったボール。しかしメーカーから届いた靴が気に入らず、はき慣れたA社の靴を白く塗って試合に出場したという。
だが白いサッカーシューズが一般的になるには、この後、四半世紀もの時間が必要だった。90年代半ば、デビッド・ベッカムがはいてブームになった。そして21世紀にはいると一挙に「カラー化」が進んだ。黄色、赤、紫、緑、オレンジ...。いまやピッチ上は春の野原のようだ。
シューズは、すね当てとともに選手が個々に調達するサッカー用具。しかもルール上では義務として身に着けなければならないとしか記載されていない。相手選手に危険のないものであれば、ほとんど制約はない。
「僕らはみんな違うんだ」と主張したのは、ピンクのシューズで有名になったデンマーク代表FWニクラス・ベントナー。シューズの色でその選手の性格や「願望」を推し量る研究もある。
その一方で、派手な色のシューズをはいたFWはハードタックルを受けやすいという説もある。その説を信じて黒に戻したのが、イングランド代表FWウェイン・ルーニーだ。
2年ほど前、マンチェスター・ユナイテッドのアレックス・ファーガソン監督は、ユース選手のシューズは黒以外認めないと宣言した。「おしゃれするのはプロになってからにせい!」ということらしい。彼に追随する指導者も少なくない。
論争はあっても、カラー化の波は止まらない。メーカーの要請に従って、シーズンごとに色を変えるスター選手も珍しくない。
5、6年前、私が監督をしている女子チームの選手の大半が白いシューズになっているのに気がついた。「靴の色よりプレーに集中しろ」とチクリとやると、間髪を入れず言い返された。
「セールになっているのが、白ばかりなんだもん!」
(2012年2月15日)
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