サッカーの話をしよう
No.874 プロサッカーのマーケットを守れ
3月3日の富士ゼロックススーパーカップ(柏×FC東京)は、力のこもった熱戦だった。翌4日にはJ2が開幕、11試合すべてが2点差以内の接戦だった。そして今週土曜日には、20シーズン目のJ1が開幕する。
開幕前の話題のひとつがタイ・プレミアリーグ(TPL)とのパートナーシップ契約の締結だった。昨年までTPLでプレーした丸山良明さん(DF、元横浜、新潟など)の尽力もあって実現した。今後タイで定期的にJリーグのテレビ放映が行われるという。
私は、現在の世界のサッカーの大きな問題のひとつが欧州サッカーの「世界戦略」にあると考えている。アジアや北アメリカで、欧州のビッグクラブのユニホームを着て闊歩(かっぽ)する若者が驚くほど多い。その一方で地元クラブのユニホームは探してもなかなか見つからない。
欧州のサッカーは世界に「マーケット」を広げ、テレビ放映権とユニホーム販売で大きな収益を得ている。本来なら地元のプロサッカーがよって立つべき各国のサッカーファンが、欧州によって食い荒らされているのだ。欧州勢の貪欲(どんよく)さは19世紀の列強による帝国主義的進出さえ思い起こさせる。
だが今回のJリーグとタイの協定は、だいぶ意味あいが違う。
「アジアのマーケット獲得が目的ではありません。アジアのマーケット自体を協力して広げること、それによってアジアのプロサッカーを強化し、ステータスを上げることを通じて、私たちも恩恵を受けようという考え方なのです」(中西大介Jリーグ事務局長)
そのため、育成活動や選手・チームの交流を進めていくという。20人を超える日本人選手が活躍するTPLの日本での放映も、その道を模索している。
「パートナーシップ」という表現に触発されて、私も世界各国のプロサッカーを振興する方法を考えてみた。放映権やグッズの販売権の交換制度だ。
日本とタイなら、JリーグがTPLの放映権やグッズを販売し、TPLがJリーグのものを売る。テレビ放映権やグッズの売り上げは販売したそれぞれの国のリーグの収入となり、「マーケット」は守られることになる。
この制度が世界に広まれば、サッカーから生まれるすべての利益がそれぞれの国内のサッカーに還元されることになる。Jリーグが音頭をとってアジアでこの制度を定着させ、世界中に提案していったらどうだろうか。
(2012年3月7日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。