サッカーの話をしよう
No.876 ゴールラインテクノロジー秒読みへ
際どいゴールの判定を審判員だけに任せず科学技術を使う「ゴールラインテクノロジー(GLT)」の導入が秒読みにはいった。サッカーのルール改正を決める唯一の機関である国際サッカー評議会が2種類のGLTの最終テストを決め、早ければことし7月にも正式認可となる方向だ。
10年ワールドカップで、同点ゴールになるはずだったイングランドのシュート(1メートル近くゴール内にはいっていた)を審判員たちがゴールと認定することができず、大きな波紋を呼んだ。これをきっかけに、国際サッカー連盟(FIFA)は一時凍結していたGLTの再検討を始めた。
昨年末に8つのシステムをチェックした結果、ビデオカメラを使う「ホークアイ」と、特殊な発信機付きのボールとゴールポスト間の磁場を利用した「ゴールレフ」の2システムが最終テストにかけられることになった。
「ホークアイ」はテニスのメジャーイベントなどでおなじみのシステム。プレーから数秒でコンピュータグラフィック付きの判定が出る。テレビ中継との組み合わせで大きなインパクトとなる。一方「ゴールレフ」は瞬間的に判定結果が出て、主審がもつ腕時計型のモニターにメッセージが表示される。
GLTが導入されれば試合結果につながる重大な判定ミスは回避できるが、良いことばかりでもない。コストの問題だ。「ホークアイ」の場合、システム設置に1施設あたり2万5000ポンド(約330万円)もかかり、運用には専門家を雇わなければならない。
FIFAにGLTの再検討を迫った10年ワールドカップの誤審は、64試合、1795本のシュートでたった1回のケースだった。
Jリーグでは、今季のJ1第1節、柏×横浜で早くも1件(横浜のFW大黒のヘディングシュートがゴールと認められなかった)があった。しかし年に数回程度の判定のために全会場にGLT装置を設置し、運用することは現実的だろうか。
結局のところ、GLTが正式認可になっても、FIFAの世界大会や欧州のクラブ大会、ビッグリーグに限られるのではないか。
ヨーロッパサッカー連盟はGLTの導入に消極的で、現在実験的に導入している「追加副審(両ゴール裏に副審を1人ずつ配置する方法)」を推進している。これならゴール判定に限らずペナルティーエリア内の監視という面でも主審を助けることができる。現段階では、より現実的な方法ではないだろうか。
(2012年3月21日)
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