サッカーの話をしよう
No.878 ゾーンCK守備のすすめ
日本のコーナーキック(CK)は遅い。
大ざっぱな話だが、欧州の主要リーグではボールが出てから平均20秒でCKがけられるが、Jリーグでは平均30秒かかる。攻撃側が時間をかけることが最大の原因だが、守備側の「マツーマン守備」にも一因がある。
守備側は相手選手をひとりずつ厳しくマークする。動き出しに遅れないよう、相手を両手でかかえ込む選手までいる。それを見た主審が笛を吹いて注意を与える。そんなことで10秒も余計にかかってしまうのだ。
だがマンツーマンだけがCKの守り方ではない。それぞれの選手が地域を担当する「ゾーン」の守備もある。
守備側はボールがけられるコーナーに近いゴールポスト(ニアポスト)前に1人、ゴールエリアの角に1人、ゴールエリアのライン上に3人など、「危険地域」にバランス良く選手を配置する。そしてけり入れられるボールの落下地域を担当する選手が責任をもってはね返す。
日本代表が2月に大阪で対戦したアイスランドは、極端なゾーン守備だった。日本のCKに対し、通常は3、4人で対応するゴールエリアのライン上に6人が並び、まるで人壁のようだったのだ。この試合、日本は8本のCKを得たが、シュートに結び付けられたのは1本だけ。得点にはつながらなかった。
「ゾーンだとボールに集中できる」
ラーゲルベック監督はそう説明した。
マンツーマンでも1人か2人は重要なポイントをゾーンで担当するのが普通。ゾーンでも相手に特別ヘディングが強い選手がいればその選手にだけマークをつけることもある。だが実際には両者の違いは歴然。ゾーンだと引っ張り合いや押し合いがなく、非常にクリーンなのだ。必然的に主審の介入もなく、試合運びも速くなる。
欧州ではCKをゾーンで守るチームが増えてきた。マンツーマンが圧倒的だったJリーグでも少しずつ出てきた。柏や名古屋だ。だが多数派はまだマンツーマン。つかみ合いの醜い争いこそ減ったが、攻撃側の動きが巧妙になった分、ゴール前の混乱はひどい。
ゾーンにして失点が増えるわけではない。昨年のJリーグの優勝と準優勝チームが採用していることでも明らかだ。それならば、無益な争いのないゾーンのほうが、選手の精神衛生上も好ましいのではないか。マンツーマンに凝り固まっていないで、いちど試したらどうだろうか。
1990年ワールドカップ ブラジル対コスタリカ(トリノ)
(2012年4月4日)
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