サッカーの話をしよう
No.880 連覇目前のドルトムントと香川
日本代表MF香川真司が所属するボルシア・ドルトムントのドイツ・ブンデスリーガ連覇が決定的となった。
先週、2位バイエルン・ミュンヘン、3位シャルケ04という強豪との連戦をともに1点差で勝ち、2位との勝ち点差を一挙に8に広げた。残り3試合。ひとつ勝てば2季連続5回目の優勝だ。
もちろん選手の多くはいずれかの国の代表選手。だが世界的名手がいるわけではない。若い監督が若い選手の才能を見抜き、手抜きなしの集団的なプレーを徹底した結果だ。
チームのバックボーンは地元の熱烈な支援だ。ドイツ最大の収容数を誇るホームスタジアムは常に満員。今季ホーム15試合の平均観客数8万0495は実に収容数8万0720の99.7パーセント(!)。欧州で平均観客数がドルトムントを上回るのはスペインのバルセロナ(9万9354人収容で平均8万2015人)ただひとつだ。
ひとりでシーズン40得点もたたき出すメッシ(バルセロナ)やクリスティアノロナルド(レアル・マドリード)はいない。だがドルトムントは昨年9月24日のマインツ戦以来25戦負けなしという大記録をつくった。
前へ前へとボールを運び、チャンスになると相手ペナルティーエリアに4人も5人もはいっているという攻撃が、このチームの最大の魅力であることに異論はない。その攻撃がはまって4点以上取ったことが7試合もある。しかし同時に、1点差の勝利が8試合という勝負強さも見せる。宿敵バイエルンとの2戦は、いずれも1-0の勝利だった。
先週末のシャルケ戦は、立ち上がりに失点を喫し、相手の猛プレスになかなか思うような攻撃ができなかったが、セットプレーを生かして2-1で逆転勝利。苦戦はしても、勝利はつかんだ。
猛烈な運動量をベースにした全員攻撃全員守備。ユルゲン・クロップ監督(44)は、その力感あふれる動きのなかに、ひとり異質な香川を置く。彼の絶妙なポジショニング、前を向く素早さが、ドルトムントの攻撃に秩序をもたらし、「得点」という目的に向けてまとめ上げるからだ。
昨年はけがでシーズン前半だけの活躍にとどまった香川。だが今季は31試合中27試合に先発し、シーズンを通じて攻撃を牽引した。
奥寺康彦(ケルン78年)、長谷部誠(ヴォルフスブルク09年)に次ぎ、日本人のブンデスリーガ優勝は3人目。そしてことし、香川は日本人で初めての「連覇」を経験する。
(2012年4月18日)
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