サッカーの話をしよう
No.881 アドバンテージ適用の改善を
レアル・マドリードがアウェーでバルセロナを下し、4年ぶりのスペインリーグ優勝に向け大きく前進した試合(21日)で、印象的なシーンがあった。
後半25分、1点をリードされたバルセロナが攻め込んだ。メッシがドリブルでペナルティーエリアに迫る。必死に立ちふさがるレアル。3人に囲まれ、強烈な体当たりを食らわされて倒れるメッシ。完全なファウルだ。しかしボールは左にこぼれ、そこからパスがつながってシュート。リバウンドを拾って二次攻撃をかけたバルセロナが待望の同点ゴールを決める。
ウンディアーノ主審による見事な「アドバンテージ」の適用。一瞬の好判断が、試合を見事に引き締めた。
反則があってもプレーを止めないほうが反則をされたチームに利益があると判断したときに適用するアドバンテージは、古くからある審判技術だ。ところが日本の審判はなかなかこの技術に習熟できない。反則があると反射的に笛を吹いて試合を止めてしまうのだ。Jリーグでさえ、たびたびそうしたシーンに出合う。
先週末にテレビで見たある試合では、反則のたびに笛が吹かれ、試合が止められた。審判に合わせるように、選手たちも反則されるとすぐに倒れてアピールした。その結果、サッカーの魅力の重大な一部であるタフさなどかけらもなく、非常にソフトな印象の試合になってしまった。
アドバンテージをとったのに結果として反則された側が有利にならなかったときに元の反則を罰する「ロールバック」が認められた96年以降、アドバンテージ適用の判断は容易になったはずだ。だが日本では明らかに改善が遅れている。
反則を見極めようという意識が強すぎるのではないか。反則に意識が集中するあまり、より重要な「反則の結果」を見ることを忘れてしまうのだ。反則した側が有利になったのなら笛で止めなければならない。しかし反則を受けた側がそれでも攻撃を続けようとしているときに止めたら、逆に反則した側を利する結果となる。
反則だけで笛を吹かなければならないのは、レッドカードに値する重大な違反のときだけだ。そのときにも、反則の直後に得点の機会があるときにはアドバンテージを取らなければならない。
スムーズなアドバンテージの適用は、試合に魅力を与えるだけでなく、選手をタフにする。日本サッカーの重要な課題のひとつだ。
(2012年4月25日)
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