サッカーの話をしよう
No.882 東北旋風
「東北旋風」だ。
4月28日、Jリーグ1部(J1)で首位を独走するベガルタ仙台は新潟に遠征して1-0の勝利。8試合で7勝1分けの無敗、2位との差を勝ち点6に広げた。2日後には2部(J2)2位のモンテディオ山形が東京Vに2-0で快勝。首位湘南と勝ち点で並んだ。
J1が18、J2が22クラブとなった今季、Jリーグは日本の全47都道府県のうち29都道府県に広がっている。そのなかで東北は「Jリーグの普及が最も遅れた地域」である。6県のうち、宮城県と山形県にそれぞれ1つずつしかクラブがないからだ。関東(8都県のすべてに計16クラブ)と比較すると、東北の「過疎度」がわかる。
ところがその2クラブが、それぞれJ1とJ2でリーダーの役割を演じている。しかもともにスターと呼べる選手などもたず、チーム一丸のハードワークで勝利を積み重ねているのだからすごい。
仙台を率いるのは就任5年目の手倉森誠監督(44)。山形の奥野僚右監督(43)はJ1から降格したチームを引き継いだばかり。ともに選手を徹底的に鍛え、前線からの厳しいプレスとボールを奪ってから時間を無駄にしないシンプルな攻撃で勝利を重ねている。
先週新潟と対戦した仙台は、相手の堅固な守備に苦しんだ。だが後半44分、最後の最後にPKを得て決勝点。「辛抱強さとしたたかさで取った、大きな大きな勝ち点3」(手倉森監督)だった。
そして30日には、東京Vの猛攻にさらされた山形が、前半40分のこの試合最初のシュートを相手GKにはじかれて得た最初のCKから先制。後半はさらに攻め込まれながらも、自陣で得たFKをGKが長くけり、あきらめずに走り込んだFWが叩き込んで勝利を決定づけた。「我慢することでひとつのチャンスをものにすることができた」と、奥野監督は選手たちの献身的な攻守をほめた。
両チームに共通するのは「超人的」と言っても過言ではないがんばりだ。相手を追い詰める迫力、相手シュートに体を張る選手の多さ、そしてチャンスと見たときの驚異的な走り込み。ひとりのがんばりが周囲に伝わり、文字どおりチーム一丸の攻守がキックオフから終了のホイッスルまで続く(だからこの記事では意図的に選手の個人名を省いた)。
それが「東北魂」なのか、私にはわからない。しかし昨年来の東北の人びとの生きざまが彼らに何らかの力を与えていることは、容易に想像がつく。
(2012年5月2日)
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