サッカーの話をしよう

No.883 スローインの再考を

 イングランドのプレミアリーグでストークと対戦するチームは、自陣深くで追い詰められたとき、スローインにするよりコーナーキック(CK)にすることを選ぶ。ストークのMFデラップ(35)の40メートル級の超ロングスローを恐れているのだ。
 あるシーズンには、チームが記録した全38ゴールのうち9点がデラップのロングスローから生まれたものだった。CKからの得点はわずか4点だった。
 雑なスローインをするチームが少なくない。女子のなでしこリーグ、Jリーグ2部、そしてドイツのブンデスリーガと、レベルの違う3試合を調べて驚いた。スローインからシュートチャンスができるかパスが2本以上つながってキープできれば成功という基準で見ると、成功率は3試合ともほどんど同じ50~60%だったのだ。
 どのレベルでも最も多いのは、タッチライン沿いに前、あるいは斜め前に投げ、長身選手にヘディングでそらさせて攻撃しようというものだった。成功するのは10回に1回程度なのに、選手たちは懲りずに繰り返す。
 違いは、試合のレベルではなく、個々のチームの取り組み方にあるようだ。ボール保持を重視し、パスにひいでたチームは、スローインも成功率が高い。なでしこリーグのINAC神戸は成功率100パーセントだった。
 現在の世界で「ボール保持」と言えばスペインのFCバルセロナだが、チェルシー(イングランド)とのUEFAチャンピオンズリーグの準決勝では、予想どおり、19回のスローインをすべて成功させていた(相手は14回で成功わずか4回)。
 成功率の高いチームには2つの共通点がある。第1に外に出たボールを拾った選手が時間をかけずにすぐに投げること。そして第2に、前方や斜め前ではなく、横や後方に投げることだ。受ける選手がタイミングよくフリーになることで、この2つの要素が生きる。
 ボールが出ると必ずサイドバックに渡して投げさせるようなチームは、時間がかかりすぎ、近くの味方はマークされてどこにも投げられないという状況に追い込まれる。揚げ句は「10に1つ」の長身選手の頭めがけたボールということになる。
 「ボールを味方につなげ、試合のなかで自分たちの攻撃意図を実現するための最も重要な道具」とパスを定義するなら、スローインもパスの一形態と位置付けるべきだろう。その成功不成功が半々でいいのか、冷静に考える必要がある。
 
(2012年5月9日)
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1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

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