サッカーの話をしよう

No.884 史上最高の試合

 世界の注目下、UEFAチャンピオンズリーグ決勝が今週土曜日(19日)にミュンヘンで行われる。バイエルン・ミュンヘン(ドイツ)対チェルシー(イングランド)。57年の大会の歴史で、決勝戦をホームスタジアムで戦う栄誉に浴したのはバイエルンでわずか4チーム目だ。
 さて過去56回の決勝戦のなかに「史上最高の試合」と呼ばれるものがある。1960年にスコットランドのグラスゴーで行われたレアル・マドリード(スペイン)対アイントラハト・フランクフルト(西ドイツ)だ。
 会場はハムデン(ハンプデン)パーク。ことしのロンドン五輪で日本男子がスペインと初戦を戦うスタジアムだ。現在は収容5万2103人だが、以前は欧州最大のスタジアムとして有名だった。60年の決勝戦には、実に12万7000人もの観客が詰め掛けた。
 全身白のレアルは、第1回大会から優勝し続け、5連覇を目前にしていた。アルゼンチンのディステファノ、ハンガリーのプスカシュ、そして地元スペインの星ヘントと、前線に世界的な名手を並べ、史上最初の「銀河軍団」だった。
 一方、赤いユニホームのアイントラハトは全員ドイツ人。西ドイツ代表が数人いるだけだった。ブンデスリーガの誕生(63年)前、選手は完全なプロでさえなかったのだ。
 アイントラハトはその名(「協調」の意)のとおり見事なチームプレーで対抗した。前半18分には35歳のクレスが先制点を決め、さらに攻め立てた。
 だがレアルは慌てなかった。27分にブラジル出身のカナリオのクロスをディステファノが決めて同点。前半終了までに3-1と逆転してしまう。
 後半にはいるとプスカシュが3連続得点。観客はレアルの見事な攻撃に酔った。だがアイントラハトは試合を投げない。そして後半27分に1点を返す。
 ここからのレアルの攻めがすごかった。キックオフから中央で短いパスを5本つなぐと、ボールを受けたディステファノが突然加速し、7点目を決めてしまったのだ。だがアイントラハトはシュタインがもう1点返し、結局7-3で終了した。
 相手を恐れず、あなどらず、互いに最後までゴールを目指して全力で攻め合った決勝戦は、本当に美しい試合だった。両チームを称える盛大な拍手はいつまでもやまなかった。
 合わせて10得点は無理でも、今週土曜日の試合も「攻め合う決勝戦」が見たいものだ。
 
(2012年5月16日)
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス

サッカーの話をしようについて

1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。

アーカイブ

1993年の記事

→4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

1994年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

1995年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

1996年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

1997年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

1998年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

1999年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2000年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2001年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2002年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2003年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2004年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →9月 →10月 →11月 →12月

2005年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2006年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2007年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2008年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2009年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2010年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2011年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2012年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2013年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2014年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2015年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2016年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2017年の記事

→1月 →2月 →3月 →4月 →5月 →6月 →7月 →8月 →9月 →10月 →11月 →12月

2018年の記事

→1月 →2月 →3月