サッカーの話をしよう
No.888 EURO始まる
ワールドカップ予選ヨルダン戦の取材を終えて帰宅すると、欧州選手権(EURO)の開幕戦が始まっていた。これから毎日深夜に2試合ずつ。サッカーファンは忙しい。
ワールドカップとオリンピック大会に次ぐ「世界で3番目に大きなスポーツ大会」と言われる欧州選手権決勝大会。欧州サッカー連盟(UEFA)加盟の53協会による選手権で、16チームで争われている。第14回の今大会。ポーランドとウクライナの共同開催だ。
だが巨大化したのは過去16年間のこと。それまでは小さな大会だった。92年にスウェーデンで行われた大会は、UEFA自身が「小さいことは美しい」のスローガンを掲げていたほどだったのだ。
当時ワールドカップは24チームで行われ、98年には32チームになるという時期だった。しかし欧州選手権の決勝大会はわずか8チーム。それどころか、76年の第5回大会までは4チームが集まり、準決勝2試合と、3決・決勝の計4試合を行うだけ、わずか5日間の大会だったのだ。
60年の第1回大会では優勝候補のスペインが準々決勝で棄権するという事件もあった。当時のスペインはフランコの独裁時代。フランコはサッカーファンでもあったが、ホームアンドアウェー制の準々決勝の組み合わせが決まって相手がソ連とわかると、対戦を禁止してしまったのだ。
フランスでの決勝大会に進出したソ連は、準決勝でチェコスロバキアに3-0で快勝。決勝戦はユーゴスラビアとの延長を2-1で制して初代欧州王者となった。
本当に小さな大会だった欧州選手権が、小さいながらも欧州全体のサッカーの祭典となったのが80年の第6回イタリア大会。8チームが出場して「ミニワールドカップ」のような大会となった。それが96年の第10回イングランド大会から出場16チームに倍増した。さらに次回、16年の第15回フランス大会では24チームの大会となる。
90年代初頭の東ヨーロッパ諸国の分裂を経て、それまで加盟34協会だったUEFAは短期間のうちに53協会にまで増えた。大会の巨大化はそれに対応するものだが、同時に、より収益性の高い大会をめざすUEFAの意思の表れでもある。
2年後のワールドカップを占う大会とも言われる欧州選手権。スペインの連覇なるか、急成長のドイツがストップをかけるのか―。7月1日の決勝戦まで、目を離せない戦いが続く。
(2012年6月13日)
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