サッカーの話をしよう
No.894 ロンドン・ジャパニーズFC
8月12日の朝、ロンドン在住のジャーナリスト原田公樹さんに誘われて西ロンドンの公園に行った。
ロンドン五輪最終日、都心は男子マラソンの観戦客でごった返していたが、住宅地の中の公園は犬を連れて散歩する人が2人、3人といるだけ。静かな日曜の朝だった。
三々五々集まってきたのは日本人のサッカー選手たち。この日はロンドン・ジャパニーズFC(通称ロンジャパ)の練習日。20人ほどになると、広大な芝生の一角にマーカーコーンでピッチをつくり紅白戦が始まった。
「ロンジャパ」は1983年創立、29年の歴史をもつ。日本サッカー協会の国際委員をしていた伊藤庸夫さんを中心にいろいろな会社の駐在員で結成された。現在ロンドンには日本人サッカークラブが7つほどあるというが、老舗クラブとして異彩を放っている。
昨年は、市内に住む外国人チームを集めた「インナーシティ・ワールドカップ」で銅メダルを獲得、「聖地」ウェンブリー・スタジアムで行われた東日本大震災の復興支援試合にも出場した。
現在の登録選手は35人。監督兼任の渋谷英秋さんの59歳を筆頭に16歳まで、年齢も職業も雑多だが、毎週日曜の午前中にきれいな芝生の上でサッカーをし、そのあとパブに繰り出してわいわいがやがやとやるのが大好きな人ばかりだ。
「活動の中心は親善試合で、年間40試合もこなしたことがありますが、練習もしたいので、いまは半々にしています」と、クラブ創設年からのメンバーで、92年から監督を務める渋谷さん。
「ロンドン市内にはこのように自由に使える公園がいくつもあります。僕らがここを練習場に選んだのは、都心の公園と比べると競争がほとんどなく、駐車にも困らないからです」という「北アクトン・プレーイングフィールズ」は、10万平方メートル近く、サッカーのピッチが優に8面は取れる広さがある。
「駐在員だと2、3年しかいない人が多いのですが、その代わりOBは29年間で1000人にもなり、世界中に散らばっています。同時期にここでプレーしていなくても、世界のあちこちでOB同士の交流が行われています。日本にはOBのチームもあるんですよ」
大都会ロンドンの豊かなスポーツ環境にため息をつきつつ、サッカーという競技が世代を超え、国境を超えて人びとを結び付ける力をもっていることを改めて感じた。
(2012年8月15日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。