サッカーの話をしよう
No.895 日本サッカーの未来像
記事のなかでときどき大げさな表現をしてしまい、そのたびに反省する。だが今回書くことは違う。
「ヤングなでしこのサッカーには、日本の未来がある―」
日曜日に開幕したU-20女子ワールドカップ。20歳以下の女子選手による世界大会だ。それに出場している日本代表「ヤングなでしこ」。吉田弘監督が率いるチームのサッカーがものすごいのだ。
現在の日本の代表クラスのサッカーは、男女の別や年代を問わず「パスワークとチームプレー」と表現することができると思う。
「日本のサッカーを日本化したい」とイビチャ・オシムが語ったのは2006年7月。その何十年も前から、「日本のサッカーとは...」という議論が行われてきたが、2010年ごろには、明確なイメージとして「日本のスタイル」を語ることができるようになったのではないか。
だが、パス、パス、パスのサッカーでは限界がある。そう考え始めていた矢先に見たのが、10年のU-17女子ワールドカップの日本代表だった。パスだけでなく、短いドリブルを多用し、それを実に効果的に使ったのだ。
パスを受けてスペースがあれば迷わずドリブルに移る。そして相手が引きつけられた瞬間に次のパスを送る。短いドリブルがはいることでパスの効果が飛躍的に大きくなる。10年のU-17日本女子代表は、そんなサッカーで世界大会準優勝を飾った。そのチームの選手を主体にしたのが今回のU-20なのだ。
そして開幕のメキシコ戦で、「ヤングなでしこ」たちは2年前よりさらに進化したサッカーを見せた。ポジションの別なく短いドリブルを織り込める能力はそのままに、スピードのある正確な縦パスという新しい武器を身に付けて攻撃の威力を倍加させたのだ。
「世界をリードするサッカーを見せたい」と語る吉田監督だが、このチームのサッカーはすでにあらゆる年代の男女日本代表が進むべき方向性を示している。日本のサッカーの「明日」は、間違いなくこの「ヤングなでしこ」のなかにある。
先週日曜のメキシコ戦(4-1の勝利)を見逃した人は、ぜひ今夜のニュージーランド戦(午後7時20分キックオフ)を見てほしい。そして機会があれば、大会中にスタジアムを訪れ、「日本のサッカーの未来像」を確認してほしい。
繰り返し言うが、これはけっして大げさな話ではない。
(2012年8月22日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。