サッカーの話をしよう
No.901 ダイビングヘッドをもっと
「一生ダイビングヘッド」
日本代表FW岡崎慎司(シュツットガルト所属)は、小学生時代のコーチからこんな言葉を贈られたという。
昨年9月のウズベキスタン戦。0-1で迎えた後半、右サイドからのボールがFW李忠成の頭上を越えて落ちてきたところに、後方から走り込んできた岡崎が飛びついた。
ひざの高さほどのボール。スタンドから見ていたら、まるで地面で鼻を擦りむいてしまうのではと思うほどの低さで飛び込んだ岡崎の頭から放たれたボールは、堅守のGKネステロフを破って日本の同点ゴールとなった。
ダイビングヘッドとは、体を空中に投げ出して行うヘディング。「フライングヘッド」とも言う。守備の場面で使われることも少なくないが、中盤では滅多に見られない。最も多いのがシュートの場面だ。体を投げ出すというプレーの特質上、決定的な状況だけで使われる「必殺」の技と言うことができる。
どういうわけか、私は高校時代からこのプレーが大好きだった。母に叱られながら軟式テニスのボールを使って居間で練習をし、前方に飛び込みながら両足を操ることで体にひねりを入れてボールの方向を自在に変えるテクニックも身に付けた。残念ながら試合で使う機会はあまりなかったが...。
岡崎がドイツに移籍して以来、日本のサッカーではなかなかダイビングヘッドによるゴールを見ない。もちろん高いクロスはヘディングで合わせようとするが、少し低くなると足を上げてけり込もうとする選手が圧倒的に多い。この傾向は、とくに若い選手に強いように感じる。
足でボールを扱うプレーは過去数十年間で大幅に向上した。浮いたボールのコントロールに苦労する選手などもうほとんど見られないし、ボレーキックの技術も高い。しかしジャンプしたりその場に立って足を上げてけるより、体を投げ出してヘディングするほうがより遠くのボールにコンタクトできるのは間違いない。
「ダイビングヘッド愛好家」としては、Jリーグの選手にも、中学生や高校生にも、もっとダイビングヘッドを練習してほしいと思う。いやというほど練習すれば、無意識に頭から突っ込んでいくようになる。
ゴール前で足を上げるのは無精にふんぞり返っているように見える。謙虚に頭を下げたら、サッカーの神様はきっとゴールという門を開けてくれる。
(2012年10月3日)
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