サッカーの話をしよう
No.902 サッカーの本質を見失うな
PK戦で敗れて準優勝に終わったものの、男子U-16アジア選手権での日本代表は圧倒的な技術を見せ、強い印象を与えた。
正確でタイミングの良いパス、パスを受けるための動き、相手の逆をとるワンタッチコントロール、ドリブル...。若い年代の日本の技術は世界のトップクラスと言ってよい。
だが見ていて非常に気になる点があった。何人もの選手が「前を向かない」ことだ。
フリーの状態で縦パスを受けても、相手ゴールに背を向けたまま自動的にバックパスをするMF。タッチライン際でボールを受けると必ず内側に向き、横や後ろにしかパスをしない左サイドバック。突破しかけているのにターンし、バックパスをしてしまうFW...。
安易にボールを失わないことの大切さが強調されている結果かもしれない。一か八かのプレーではなく、粘り強く相手の穴を探すという試合スタイルなのかもしれない。しかしもどかしい。そのもどかしさに、日本のサッカーの問題点のひとつが表れているのではないだろうか。
今夏最も強烈な印象を受けた試合は、オリンピック男子のスペイン対ホンジュラスだった。日本に敗れて後がなくなったスペイン。この試合も立ち上がりに失点し、絶体絶命のピンチとなった。
猛攻に出るスペイン。ホンジュラスは強いフィジカルを生かして体当たりを連発し、小柄な選手が多いスペインを止める。だがはね返されても倒されてもスペインはひるまなかった。狭いスペースで速いパスをつなぎ、ドリブルで大きな相手を抜き、最後のホイッスルの瞬間まで相手ゴールを襲い続けた。結局追いつくことはできなかったが、スペインの選手たちは感動的なまでに勇敢だった。
「自分のゴールを守り、相手のゴールにボールを入れる」
それがサッカーの本質だ。そのシンプルな目的を達成するためにさまざまな技術や戦術がある。技術や戦術を強調するあまり、本質を見失っているのが現在の日本ではないか。
「前を向かない選手」は、U-16日本代表の問題ではなく、日本の育成システムの問題のように思う。早い時期から「良いサッカー」を教えすぎることの弊害だ。その結果、サッカーというゲームの本質を体得する重要なステップがおろそかになっている。
技術は世界のトップクラスでもサッカーでトップになれない理由、スペインとの違いはそこにある。
(2012年10月10日)
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