サッカーの話をしよう
No.904 小久保選手の胴上げと拍手
プロ野球・福岡ソフトバンク・ホークスの小久保裕紀選手が、チームメートと相手の北海道日本ハムファイターズの選手たちに胴上げされたシーンは、とても感動的だった。
先週金曜日、札幌ドームで行われたパリーグのクライマックスシリーズ第4戦でファイターズが勝ち、日本シリーズ進出を決めた。それはホークスのシーズン終了も意味していた。今季限りで引退を発表していた小久保選手にとっては、現役最後の試合となった。
試合後、表彰式が終わり、ファイターズの選手たちがレフト側の外野席前に整列してあいさつをする。ホークスの選手たちもライト側に並ぶ。ところがあいさつを終わったファイターズの選手たちがいっせいにライト側に走り始めたのだ。
何事かと思った先に小久保選手がいた。たちまちファイターズの選手たちに囲まれ、握手攻めにあう小久保選手。やがてチームメートも集まり、両チームの選手たちの手によって小久保選手の体は6回も宙に舞った。
スタンドを埋めた満員の観衆の多くは当然のことながらファイターズ・ファン。だが盛大な拍手とともに「コクボ! コクボ!」のコールを繰り返した。小久保選手は帽子を取って高く挙げ、何回もおじぎをして感謝の気持ちを表した。
ニュースでこの様子を見ながら、Jリーグも学ばないといけないと思った。サポーターの盛り上げが大きな役割を果たしているJリーグ。しかし無差別に相手チームを「敵視」することが役割と勘違いしているサポーターが少なくない。相手チームの選手は全員ブーイングの対象だ。
ブーイングに値する選手、ブーイングすべき選手もいるかもしれない。その一方で拍手で迎えたくなる選手、拍手すべき状況もあるはずだ。そう感じているサポーターも少なくないだろう。しかし相手チームの選手に拍手する雰囲気は、いまのJリーグにはない。そこには、「リスペクト」のかけらもない。
小久保選手に対するリスペクトの思いを素直に表現したファイターズの選手たちと札幌ドームのファンは、本当に素敵だった。Jリーグのサポーターも、もっと成熟しなければならないと思った。
小久保選手の引退セレモニーは、10日以上前にホーム最終戦で行われていた。しかしホームタウンから1400キロも離れた札幌での胴上げと心からの拍手は、小久保選手にとって何よりの贈り物だっただろう。
(2012年10月27日)
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