サッカーの話をしよう
No.908 一発勝負の魅力(カレー)
18日に行われた「J1昇格プレーオフ」準決勝2試合の結果には驚いた。J2で6位だった大分が3位の京都に、そして5位の千葉が4位の横浜FCに、ともに4-0というスコアで勝って23日の決勝戦に進んだのだ。
「一発勝負」面白さは、当事者にとっては怖さでもある。実力以外の要素、勢いや運といったもので、結果が大きく変わってしまうからだ。
サッカーという競技は番狂わせが起きやすいと言われるが、99~00シーズンのフランスカップほど番狂わせが連続した大会はないだろう。主役はカレーRUFC。現在は活動を休止しているが、当時はアマチュアの1部、トップリーグから数えると「4部」(日本なら地域リーグ)に当たるリーグ所属だった。
教師や港湾労働者などで構成されるカレーの名が話題に上るようになったのはフランスカップの10回戦でプロ2部のリールをPK戦で下してから。さらにプロ2部のカンヌもPKで下すと、準々決勝では1部ストラスブールに2-1の勝利。準決勝では前年のリーグチャンピオンであるボルドーから延長戦で3点を奪って3-1で勝ってしまったのだ。
00年5月7日、決勝戦の舞台はパリのフランス競技場。相手はプロ1部の強豪ナント。だが7万8586人の大観衆にもカレーの選手たちはひるまなかった。前半34分、左CKから執拗(しつよう)に攻め、FWデュティトルが決めて先制する。
後半、反撃に出るナント。速攻からたちまち同点とする。だがカレーはくじけない。再び勇気をふるって攻勢に出ると、互角以上の展開に持ち込む。そして残り時間が2分を切っても、決勝点を狙って人数をかけてナント陣に攻め込んでいた。
ボールを奪ったナントがカウンターをかける。カレーの守備陣はよく対応したが、ペナルティーエリア内でナントのFWカベリアが倒れ込んだ。
明らかなシミュレーション。アマチュアを相手に、プロが恥ずべき行為に走ったのだ。しかしコロンボ主審はPKを宣言。FWシベルスキがゴール中央に決めたとき、時計は89分57秒を示していた。フランス・サッカー史に刻まれるカレーの快進撃は終わった。
J1昇格プレーオフの決勝戦だけではない。年末から年始にかけて、クラブワールドカップや天皇杯など「一発勝負」の大会が次々と開催される。サッカーが持つもうひとつの魅力を、予断をもたずに楽しみたい。
(2012年11月21日)
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