サッカーの話をしよう
No.913 ことしいちばんの試合
「ことしいちばんの試合は何だっただろう」
1年間たまった資料や取材ノートを整理しながら考えた。
全12試合を見ることができた日本代表では6月3日のオマーン戦(埼玉スタジアム)が印象的だった。堅守の相手を見事な攻撃で崩して3-0。この勝利がワールドカップ・アジア最終予選に決定的な勢いをつけた。
しかし日本サッカーの可能性を最も強く示唆した試合は、ロンドン五輪男子のスペイン戦ではなかったか。
大会前、関塚隆監督率いるU-23日本代表の評価は低かった。スペイン、モロッコ、ホンジュラスと組むD組を2位以内で突破する可能性は低いだろうという声が高かった。最大の懸念要素は守備の弱さだった。
だが徳永悠平と吉田麻也の「オーバーエージ」2人がはいるとDFラインは見違えるように安定した。そして迎えた初戦、優勝候補のスペインに対し、日本は前半34分にFW大津祐樹が挙げた得点で1-0の勝利を得た。自信を得た日本は44年ぶりのベスト4進出を果たす。
勝利のカギは守備だった。DFラインの安定はもちろんのことだが、この日スペインを圧倒したのは、前線からの容赦のないプレスだった。10人が休むことなく90分間走り、連係して相手を追い詰めた。そしてボールを奪うと才能を生かしたパス攻撃で相手ゴールに襲いかかった。3-0でも4-0でもおかしくない試合だった。
スペインはFIFAランキング1位。そのA代表選手を何人も並べた相手に対し引いて守るのではなく、果敢にボールを奪いにいった。相手の名声におびえずにそうした戦いを選択し、全員が全身全霊で貫いたことが勝利を呼び寄せた。
来年6月、ザッケローニ監督率いる日本代表はブラジルで開催されるFIFAコンフェデレーションズカップに臨む。初戦はブラジル、続いてイタリア、そしてメキシコと当たる厳しいグループだ。
現在の日本代表はアジア相手なら相手を圧倒する攻撃的な戦いができる。しかし世界の強豪が相手になるとそんな試合はさせてもらえない。10月のフランス戦、ブラジル戦で明らかだ。ヒントになるのがロンドン五輪のスペイン戦ではないか。
相手を恐れず、相手より多く走り、積極果敢にボールを奪いにいく―。そんな守備ができれば、現在の日本の攻撃力をフルに発揮できる。それは14年ワールドカップ・ブラジル大会での可能性を大きく広げるはずだ。
(2012年12月26日)
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