サッカーの話をしよう
No.935 地球の裏側の国 ブラジル
35年以上前に初めてブラジルに行ったとき、驚きながら感心したことがある。
スタジアムでトイレに行くと、はいってくる人がまず石鹼で丁寧に手を洗い、それから男性用便器に向かって用を足すのである。
日本では逆に、用を足した後に手を洗うんだと話すと、ブラジル人の友人は不思議そうな顔でこう言った。
「大事なところを持つのだから、その前に手をきれいにしないといけないだろう?」
いきなりトイレの話で申し訳ないが、日本とブラジルが地球の裏側だと強く実感したのがこのときだった。
ブラジル。正式な国名はブラジル連邦共和国。時差は12時間。つまり日本とは昼と夜が完全に逆になる。南半球だから季節も逆だ。国土は日本の22.5倍もあるが、人口は1.5倍の約1億9800万人(2011年)。長い軍政の時代を経て1980年代に民政に移管し、今世紀を迎えてから著しい経済成長を続けている。
「ブラジル」とは、ポルトガル語で「赤い木」を意味する。16世紀に南米大陸の東部を支配したポルトガル人が赤い染料を採取できる木の自生地を発見、この地からの最初の輸出品とした。当時この土地はサンタクルスと呼ばれていたが、16世紀末には「ブラジル」と呼び習わされるようになった。
ポルトガルからの独立は1822年。建国200周年を前に、来年にはワールドカップ、その2年後の16年にはオリンピックと、世界規模の祭典が相次いで開催される。
日本とのつながりは深い。日本からの移民は1908(明治41)年に始まり、現在は約150万人の日系人がいる。一方、日本にも現在約21万人のブラジル人が居住し、外国人労働者の数としては中国人に次ぎ多い。
Jリーグ20年間の歴史で最も多くプレーした外国籍選手はもちろんブラジル人。「地球の裏側」だが、ブラジルはけっして遠くなく、近しく感じる国だ。
しかし実際には、生活習慣や文化など多くの面での違いがある。サッカーもそのひとつに違いない。
1894年に最初のタネがまかれ、20世紀にはいって爆発的な進化を遂げたブラジルのサッカー。ワールドカップ優勝5回を誇る「王国」のけんらんたるサッカー文化のなかで、FIFAコンフェデレーションズカップ(15日開幕)とワールドカップ(来年6月)が開催される。日本代表がその舞台に立つことで、私たちはまた新しい驚きに出合う。
(2013年6月12日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。