サッカーの話をしよう
No.936 多様性をもったサッカーの国ブラジル
FIFAコンフェデレーションズカップの取材で30年ぶりにブラジルにきている。
成田からアメリカ経由でブラジリアにはいり、開幕戦取材後、空路でレシフェに移動した。直行便でも2時間半。ブラジルは広い。
国の大半が南半球にはいるブラジル。6月は「冬」、しかも標高1200メートルのブラジリアは肌寒いだろうとの予想を裏切り、初夏のような陽気だった。さらに南緯8度、北西部の大西洋岸に位置するレシフェは気温30度。日本の真夏のように蒸し暑く、到着日には激しい雨も降った。それがやむと気温はやや下がったが、湿度が80%と堪え難くなった。
来年のワールドカップ会場で最も北に位置するマナウスはアマゾン中流、熱帯の大都市。6月まで雨期にあたり、蒸し暑さは大変なものらしい。一方、最も南のポルトアレグレでは、日によっては最高気温が10度を割る。
来年のワールドカップは、そのように、ひとつの国とは思えないバラエティーに富んだ会場で行われるのだ。
今回、30年ぶりにきて驚いたのは、ブラジルの物価が非常に高いことだ。タクシーはあっという間に20リアル(約1000円)を超し、ファーストフード店でも20リアルで収まらないこともある。インフレ率が6%を超すというから、来年はもっと高くなっているだろう。20年間も物価が上がらない国からくると驚くばかりだ。
だがやはりブラジルはブラジル。開幕セレモニーは、サッカーに対する愛情にあふれて本当に楽しいものだった。約八百人のボランティアでつくられた人文字が、数人がうまく位置につけなかったためところどころに抜けがあるなど、いかにもブラジルらしいおおらかさも見られた。
最も素晴らしかったのは、八百本のヤシの木が出てきたかと思ったらそこに真っ白なゴールポストが立ち上がってサッカーのピッチになり、22人の選手の大きな人形とボールが出てきて試合が始まったことだった。赤チームが攻め込み、それを奪った白チームが逆襲をかけてゴールを奪うと、スタンドの観客から「ゴオォール!」のかけ声がかかった。
ただ、開幕日には、スタジアム外で激しいワールドカップ開催反対のデモがあった。サッカーが国教のような国かと思っていたが、ブラジルの新しい面を見た思いがした。
変わらないものと変わりつつあるもの―。そんななかで、来年、ブラジルはワールドカップを迎える。
(2013年6月19日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。