サッカーの話をしよう

No.937 『ブラジル』から卒業するとき

 3連敗で敗退という残念な結果だったが、日本代表のコンフェデ杯のイタリア戦は大きな驚きだった。
 これまでも世界のトップ10クラスのチームを相手にいい勝負をしたり勝ったりしたことは何回かあった。しかしすべて相手に主導権を握られるなかで数少ないチャンスを生かした結果だった。
 ところが今回のイタリア戦は試合の大半の時間で主導権を握り、繰り返しチャンスをつくった。守備面で大きな課題は残したが、日本の攻撃が世界のトップクラスに十分通じるものであることを選手たちも信じることができたに違いない。
 イタリア戦で、日本は593本のパスを出し、461本を成功させた。成功率は78%だった。相手のイタリアは456本のパスで成功313本、69%という数字だった。イタリアのスタイルというわけではない。イタリアはメキシコ戦では632本のパスで525本成功させ、成功率83%で主導権を握った(数字はFIFA発表)。
 イングランドやドイツ一辺倒だった日本のサッカーにブラジルが衝撃を与えたのは1970年のことだった。当時の東京12チャンネルがワールドカップのほぼ全試合を放映し、日本のサッカー界は初めてブラジルの技巧を目の当たりにした。
 そこから少年指導が変わった。ブラジルのような技巧を身に付けさせたい、それには少年のうちから取り組まなければならないと、日本中のコーチたちが工夫し、指導に当たったのだ。日本サッカー協会の育成プログラムが優れているからレベルが上がったわけではない。43年前に始まった無数の、そして無名の指導者たちの努力が、現在の日本代表につながっている。
 日本の指導者たちにとって「ブラジル」は常に教師だった。そして目標でもあった。
 そのブラジル代表が日本との対戦で初めて緊張感と危機感をもって臨んだ今大会の開幕戦。日本代表は腰の引けた戦いをしてしまい、とても残念だった。だが、イタリア戦で間違いなく日本代表は変わった。世界の強豪と戦うための「何か」をつかんだ。
 来年のワールドカップで、もういちどブラジルにチャレンジしたい。そのときには、今回とはまったく違う試合になるはずだ。
 ブラジルを相手に主導権を握る試合ができたとき、私たち日本のサッカーは、44年間の「ブラジルの生徒」から卒業できるのではないか。そしてそこから新しい時代が始まるのではないだろうか。

(2013年6月26日)
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