サッカーの話をしよう
No.941 ブラジルへ、若手のチャレンジ始まる
私の記憶では、日本代表がソウル・ワールドカップ・スタジアムのピッチに立ったのは3回目。成績は1勝2分け。負けていない。
最初は03年4月。韓国代表との対戦は、終盤の幸運な得点で1-0。ジーコ監督の初勝利だった。2回目は10年10月、ザッケローニ監督下の2試合目、攻勢をとりつつ韓国と0-0。そして3回目が先週日曜の中国戦、3-3だった。
ヨーロッパ組だけでなく、Jリーグのベテランも外して臨んだ東アジアカップの初戦。立ち上がりこそ押し込まれたが、若い選手を大量に入れて2日間しか練習していないチームとは思えない攻撃で後半の半ばまでに3-1とリードした。
FW柿谷曜一郎(C大阪)のワントップでのプレーは非常に高い可能性を感じさせ、左MF原口元気(浦和)とのコンビは中国をきりきり舞いさせた。山口蛍(C大阪)、青山敏弘(広島)のボランチコンビの中盤支配も見事だった。
中国は今大会参加の男子4チーム中唯一のフル代表。先発のうち6人をAFCチャンピオンズリーグでベスト8に進んだ広州恒大の選手で固め、先月解任された代表監督カマチョのアシスタントだった伝博監督の初戦とあって、モチベーションも高かった。けっして弱いチームではない。
その中国を圧倒した日本のスピードは素晴らしかった。圧巻は後半14分の2点目(逆転ゴール)。MF青山が冷静な指示で左サイドバックの槙野智章(浦和)を走らせ、そこに完ぺきなスルーパス。ゴールライン近くまで進んだ槙野のライナーのクロスを、タイミング良くニアポスト前に走り込んだFW柿谷が鮮やかなヘディングで決めた。
最初の15分間が悪かったこと、最後の15分間に足が止まって2点のリードを守れなかったのは残念だったが、私は大きな問題とは感じなかった。
この大会の目的は来年のワールドカップへの新戦力の力を試すこと。急造チームで最初からエンジン全開は無理。終盤の体力切れも前半15分から後半30分にかけて60分間の輝かしいプレーの価値を損なうものではない。
「選手間の正しい距離をあれほど早くつかめるとは...」とザッケローニ監督。オーストラリア戦(25日)、韓国戦(28日)では、FW豊田陽平(鳥栖)などさらなる新戦力が躍動するだろう。
「幸運のソウル・ワールドカップ・スタジアム」で始まった若手のチャレンジは、「ブラジル」に直結する。
(2013年7月24日)
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