サッカーの話をしよう

No.942 なぜケネディは東アジアカップに出なかったのか

 「アンフェアだよ」
 私の顔を見るなり、オーストラリアのオジェック監督が言った。
 韓国で行われていた東アジアカップ。若い日本代表の躍動感を楽しみながら、オーストラリアFWケネディの出場辞退がひっかかっていた。彼が所属する名古屋グランパスが放出を拒否したのだ。
 東アジアカップは国際サッカー連盟(FIFA)の公式日程外の大会。クラブには選手の放出義務がない。参加国はクラブの協力を得て国内リーグを中断、チームを送った。
 「たしかに放出義務はない。だが出場国間では互いに選手を出すのがこうした大会の紳士協定のはず」というのが、かつて浦和で指揮をとったオジェック監督の言い分だった。
 今回の韓国代表にはJリーグの選手が7人もいた。オーストラリア代表は、中国から3人、韓国から1人を呼ぶことができた。
 だが名古屋の関係者に聞くと、話はそう単純ではない。
 ケネディは以前から腰の痛みをかかえ、昨年の秋からほとんどプレーできない状態だった。ことし6月にワールドカップ予選の重要な3試合を控え、オーストラリア協会は「なんとか間に合わせてほしい」と2月ごろから名古屋に依頼。それに応え、名古屋は万全ではないケネディを4月から試合に出し、コンディションを上げてきた。だがその時点で、「ワールドカップ予選には最大限協力する。しかし東アジアカップはその限りではない」とクギを刺していた。
 ケネディはワールドカップ予選の最後のイラク戦で交代出場、終了直前に頭で決勝点を決め、出場権獲得のヒーローとなった。
 当然、オジェック監督としては東アジアカップでもケネディを使いたい。大会登録は23人だが、7月16日、ケネディを含む「24人」のメンバーを発表してしまったのだ。そして名古屋が折れないと、「ストイコビッチ監督には了解を得ている」というオジェック監督の不満のコメントを公式サイトに掲載した。
 名古屋はこの強引さに屈しなかった。まだコンディションが万全でないことから、クラブで調整させたほうが本人のためにもいいと判断、FIFAに確認のうえ、「辞退」を発表したのだ。
 名古屋は18日に「チーム事情による辞退」を発表しただけ。オーストラリア協会の連続的かつ一方的な発信で「悪者」にされたままだ。国際的な交渉の難しさとともに、的確な「発信力」をもつことの重要さも考えさせられる出来事だった。

(2013年7月31日) 
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