サッカーの話をしよう

No.945 新オフサイドルール

 8月17日のJ1第21節、広島×名古屋で興味深い場面があった。
 0-0で迎えた後半12分、広島が右から攻め、MFミキッチが低いクロスを入れる。名古屋DFがはね返すと、ペナルティーエリア外で拾った広島MF青山がシュート。当たりそこないだったが、エリア内にボールを入れさせまいと名古屋MFダニルソンがとっさに食らいつき、かろうじて頭に当てる。
 だがクリアしきれなかったボールは、ゴールのすぐ右に立っていた広島FW佐藤のところに飛ぶ。佐藤は反転しながらシュート。名古屋GK楢崎に防がれたが、決定的なシーンだった。
 このプレー、6月までなら完全にオフサイドの判定が下るところだった。佐藤はミキッチのクロスに合わせてゴール右に走り込み、戻りきれずにそのまま残っていた。青山がシュートを放った瞬間、佐藤は名古屋の最終ラインより8メートルも前に出ていた。7月に施行されたルールの新解釈でオフサイドとならなくなったケースなのだ。
 以前はDFがクリアしきれずオフサイドの位置にいた選手に渡った場合はオフサイドとされていた。しかし新解釈では、ただ体に当たった場合を除き、クリアしようとするなど守備側に意図的なプレーがあってボールに触れた場合には、その時点でオフサイドではなくなることになった。
 近年、オフサイドルールは、条文の変更や解釈の明確化が行われるたびに守備側が不利になる。今回も、懸命にプレーしようとした結果うまくいかなければ、逆に(自分がボールに触れなければオフサイドになるはずだった)相手を利する結果になるという、守備側に厳しい形だ。
 ルール改正の当事者たちには、得点を増やして試合をより面白くしようという意図がある。しかし今回の「新解釈」は少し行きすぎのように感じる。「クリアミスで渡ってもオフサイド」という以前の解釈のほうが、守備側の状況をシンプルにし、プレーの流れはより自然だった。
 だがルールはルール。このときには、名古屋GK楢崎がベテランらしい見事な集中力で絶体絶命のピンチを救った。青山のシュートに備えていた楢崎。ダニルソンの頭からはねたボールが佐藤に向かうと、間髪を置かずに佐藤の足元に体を投げ出し、シュートをブロックしたのだ。
 どうルールが変わろうと、プレーヤーがしなければならないことはただひとつ。「笛が鳴るまでプレーを続ける」ことだ。

(2013年8月21日) 
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