サッカーの話をしよう
No.958 ベルギーから世界に本と情報を発信
「現在扱っているのは5000アイテムほど。でもそのほかに売り物にはしない個人コレクションが1万5000冊以上ありますよ」
日本代表の取材でベルギーに行ったついでに、ある人に会いに行った。セルゲ・ファンホーフさんだ。
80年代の終わりにフリーになった私が最初に困ったのは手持ちの資料の少なさだった。社員時代に使っていた雑誌や書籍は会社のものだったからだ。
なけなしの収入をはたいて雑誌や書籍を買いまくった。そのなかでベルギー人ながら英語で世界のサッカーのデータを紹介するファンホーフさんの本はとても有用だった。とくに第1回大会から予選を含む全試合のメンバーや戦評を記した全4巻のワールドカップ史は非常な労作。私も大いに助けられた。
自ら本を書くだけでなく、ファンホーフさんは世界中のサッカー書籍や雑誌を仕入れ、販売している。その書店があるブリュッセルとアントワープのほぼ中間のレイメナム村に彼を訪ねたのだ。
私の想像では70歳過ぎの老記者。しかし迎えたのは長髪ジーンズ姿の中年男性だった。まだ48歳だという。
「外国のサッカーに興味をもったのは9歳のとき。ボリビアのサッカークラブの名を知ったことだった。図書館で調べるうちに、外国書がほしくなった」
だが苦労して集めた何百冊もの書籍は、大学の学費を工面するために泣く泣く手放した。卒業後に世界のサッカーを紹介する仕事につき、再び収集が始まる。ドリブルを得意とするサイドアタッカーだったが、視力低下で大学時代にプレーを断念、以前にも増して世界の情報を集めることに情熱を傾けた。
インターネットなどない時代、世界中に友人をつくり、ネットワークを広げることで書籍や情報を集めた。情報をまとめて出版もするようになった。
ネット時代の到来でいくらでも世界の情報が手にはいる今日。だが書籍を欲する人はまだ多いという。書店は田舎にあっても、メールで注文を受け、郵送するから問題はない。
「扱っている100カ国を超す国の本のなかには日本の書籍も。なかでもJリーグのイヤーブックは毎年引き合いが多いんです」
書店が20周年を迎える来年には公式サイトをリニューアルし、本の内容をよりわかりやすく、そして注文しやすくすると話す。徒手空拳でネット時代に立ち向かうドンキホーテのように想像していたが、どうして、時代の最先端にいるようだ。
Heart Books
(2013年11月20日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。