サッカーの話をしよう
No.960 川又堅碁 準備はしていた
「予想はしていなかったけれど、準備はしていた」
「コメント・オブザイヤー」に選びたくなるひと言だった。
発したのはアルビレックス新潟のFW川又堅碁(けんご)(24)。11月30日、J1優勝を目前にした横浜F・マリノス戦の先制点について、試合後にこう話した。
0-0で迎えた後半27分、新潟に与えられた左CK。ボールはファーポスト側に落ち、落下点にいた横浜DF栗原がヘディング。だが空中で味方選手と新潟の選手と体をぶつけ合う形になって思い通りのクリアができず、ボールはゴール前へ。
川又はキックに合わせてニアポストに走り込んでいたが、振り向いたところにいきなりボールがきた。しかしあわてなかった。左足を一歩踏み込むと、右足を鋭く振り抜いて横浜ゴールの「天井」に突き刺したのだ。
驚くべき反応と思い切りの良さ。普通の選手なら止めるのがやっとだっただろう。しかし止めたらシュートはできなかった。至近距離に横浜DF中澤がいたからだ。
川又は愛媛県出身。県立小松高校から2008年に新潟に加入したがなかなかポジションを得られないなか、昨季J2の岡山に期限付き移籍、18得点を挙げて得点のコツを会得し、今季新潟に戻った。
新潟は2004年にJ1昇格以来、常にブラジル人選手の得点力を頼りに戦ってきた。しかし今季は4月末から日本人主体の攻撃陣に切り替えた。第8節に初先発した川又が、次の清水戦でJ1初ゴールを記録、以後堂々たるエースとなったからだ。
横浜戦のゴールは今季22得点目。川崎の大久保(26得点)に次ぐランキング2位だが、1シーズンで20点を超えた選手が昨年までの5年間で3人しかいなかったことを知れば、そのすごさがわかる。
183センチ、75キロの大型FW。ダイナミックな走りと体を張ることをいとわない闘志、そして左足の強烈なシュートが特徴の川又。しかしゴール前のこぼれ球をワンタッチで叩き込む形も多い。どんなときにもシュートへの「準備」ができているからに違いない。
私の好きなクラブマークに、スコットランドのレンジャーズのものがある。クラブ名とともに「READY」の文字が入れられている。「いつでも準備ができている」というクラブモットーをそのまま記したものだ。
考えても考えても予測しきれないのがサッカーという競技。だからこそ常に「準備」ができた状態であることが大きな意味をもつ。
(2013年12月4日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。