サッカーの話をしよう
No.966 気が重い『風の季節』
1月19日(日)は大変だった。
東京・江東区のグラウンドで試合をしたのだが、ときおり猛烈な北西の風が吹き、グラウンドから巻き上がった土ぼこりで目も開けていられない状態になってしまったのだ。
この日は中国大陸に高気圧があり、日本の東南沖には2つの低気圧が位置して、冷たい北西風が吹いていた。都心部では少し風が強い程度の印象だったのだが、グラウンドは旧中川の脇にあり、強風が吹き荒れていた。川は風の通り道なのだ。
雨中の試合もいやだが、ピッチの悪さはプレーしているうちになんとか慣れる。しかし気まぐれに吹く強風はたちが悪い。
約400グラム、直径22センチほどのサッカーボールは、ゴルフや野球のボールと比較すると、はるかに風の影響を受けやすい。昔の話だが、ゴールキックが強い向かい風に押し戻され、バウンドしないままペナルティーエリアに戻ってきたのを見たことがある。
強風に乗って超ロングシュートが決まることもある。2010年に名古屋グランパスのMFブルザノビッチが3月の磐田戦でハーフラインの手前から決めたシュートは、この日北西から吹いていた強風を利用したものだった。キックオフからわずか16秒で先制点を許してしまった磐田GK八田直樹にとっては恨めしい風だった。
追い風のほうが有利と思われがちだが、いちがいには言えない。風上から前線に送るパスは出し手も受け手もコントロールが難しく、風下から攻めるチームのほうが確実に攻撃を進められる場合もあるからだ。日曜日の私たちの試合では、得点はすべて風上側のゴールで生まれた。
天然芝や人工芝のグラウンドなら「敵」は風だけだ。しかしグラウンドが土だと、プレーヤーはさらに大きな苦痛を受ける。強風にあおられた砂混じりの土ぼこりが文字どおり襲ってくると、背を向けてたちすくむしかない。汗にまみれた顔だけでなく、歯も真っ黒になってしまう。
関東地方では、1月、2月と強い西風が続き、3月になると今度は「春一番」と呼ばれるような強い南風が吹いてサッカープレーヤーたちを苦しめる。
日曜日、試合から戻ってきた私は、まずうがいをすると、風呂場に直行した。冷えきった体を温め、念入りにシャンプーし、目や耳や鼻も洗った。洗っても洗っても黒いものが出てきた。
まだしばらく「風の季節」が続くと思うと少し気が重い。
(2014年1月22日)
1993年から東京新聞夕刊で週1回掲載しているサッカーコラムです。試合や選手のことだけではなく、サッカーというものを取り巻く社会や文化など、あらゆる事柄を題材に取り上げています。このサイトでは連載第1回から全ての記事をアーカイブ化して公開しています。最新の記事は水曜日の東京新聞夕刊をご覧ください。